裏・御伽草子
□【7】霊光の祈念
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唯一生き残ったうちは一族に、里の上層部とダンゾウは何かしら仕掛けるはずだ。
まだ8歳とはいえ、サスケは優秀な子だった。
貴重な血継限界の人体実験や里の道具にされかねない。
何より、うちはがクーデターをしでかそうとした事実がばれれば、里全体で差別や迫害が起こる。
実際、九尾の狐を封印した人柱力の子どもも里の人々から白眼視されていた。
――――弟にそんな思いをさせたくなかった。
サスケを守るために、俺は里で唯一信頼できる火影様に嘆願した。
「イタチ…すまない。
ワシらがうちはと歩み寄っておればこんな事には…」
「火影様…」
火影様は、沈痛な面持ちで俺に頭を下げ謝罪した。
最早咎人と化した俺にとって、勿体ない位の行為だった。
ダンゾウには…迂闊に手を出さない様に「情報」を武器に牽制しておいた。
「弟に手を出せば…里の情報を非同盟国に漏洩する」
この男は、野心深い男だが…火影様と形は違えど『木ノ葉里』を守る意思に偽りはなかった。
これにより、弟が危険な目に会うリスクはほぼなくなった。
それから【抜け忍】となった俺は、外側から里を守るためにある組織に入った。
―――【暁】―――
各国の抜け忍で構成された小規模の組織。
構成員のほとんどがS級犯罪者であり、5大国の里に隠れて、密かにある目的のために暗躍していた。
暁の重要な目的――――「全ての尾獣を我が物とし資金を集めること」
木ノ葉の九尾をはじめとする他里にいる【人柱力】を手中に収め、世界を掌握する事が狙いだ。
罪人の十字架を背負っていても、里を想う気持ちに変わりはなかった。
…この暁の行動を見張る事にした。
里に危害が加えられない様にするために。
余談だが、この組織で、後に腐れ縁となる芸術肌の忍二人ともあった。
数々の追手に追われながらも、俺は【ある願い】のために必死に生き続けた。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
暁入りをしてから四年後…事件が起こった。
脱退した元構成員で、【伝説の三忍】とされる大蛇丸により、木ノ葉が襲撃されたのだ。
その事件の最中、三代目火影様がお亡くなりになった。
(…このままでは、サスケが…)
内心焦りを感じつつ、顔にださないように心掛けた。
そして、リーダーから九尾の人柱力の確保の任務を命じられ、相方とともに行動を起こしに行く
…懐かしき故郷へ。
里に帰還して、真っ先に上忍三人と対峙する羽目になったが、どうにかその場をしのいだ。
九尾の少年――――うずまきナルトは、【伝説の三忍】の一人、自来也様と行動を共にしていた。
そのため、幻術を用いて女性を洗脳し、自来也様を遠ざけてナルトを捕まえようとした。
だが…その時に思いがけないアクシデントが起こってしまう。
――――サスケが…きたのだ。
サスケは、写輪眼をその目に宿して手から雷属性の術【千鳥】を発動させて、俺に向かって疾走してきた。
少し成長した弟は…殺戮者への憎しみを捨て去る事無く沸々と宿していた。
だが…俺は…その弟の腕をへし折って叩きのめした。
そして…さらなる憎しみを植え付けるために、写輪眼で両親を殺した時の惨劇を蘇らせた。
(サスケ…お前はまだまだ成長できる)
現実の非道な行いに反して、俺は弟が必ず成長して、再び刃を向けに来る事を確信していた。
サスケならば…必ず、目的を達成できるはずだ。
そう、サスケの復讐は…俺にとっての【願い】でもあるんだ。
それから、サスケは里を抜けた。
復讐するために「力」を求め、大蛇丸の下へ降ったサスケ。
三代目火影様の術で、病にむしばまれていた大蛇丸を裏切り、乗っ取ろうとした彼を逆に乗っ取る位の劇的な成長を遂げた。
二年という月日を経て――――俺とサスケは再会した。
対峙する【殺戮者】と【復讐者】。
一族の【真実を知る者】と【誇りを取り戻したい者】。
血を分けた【兄】と【弟】。
「その写輪眼…お前はどこまで見えている」
「今の俺の眼は昔とは違う!
俺の写輪眼は幻術を見抜く!」
人は誰もが己の知識と認識に頼り縛られ、生きている…それを「現実」と呼んで。
だが、それとは目に見えているモノばかりではない。
目に見えない奥底に誰もが知らない…「真実」がある。
自分の信じていたモノが「まやかし」だと弟が気付いたらどうなるだろうか…。
サスケ、お前は強くなった。
だが……心は繊細だ。
俺のなき後…【あの男】の誤った「まやかし」に惑わされないために、俺はあの九尾の少年に【ある術】を託した。
――――ゲホゲホッ……ポタポタッ
この世で最も尊敬していた人物を失い…得た伝説の瞳術【万華鏡写輪眼】。
低下する視力…病に蝕まれていく身体。
強力な力を得た対価は重く、俺の【命】を削っていった。
こんな事しなくても、解決する方法はあったと後世の人々はバカにするかもしれない…。
それでも、俺は――――サスケと戦う事を選んだ。
この世で唯一無二の兄弟―――どんな形であろうとその「繋がり」だけは変わらない。
例え憎まれようとも…蔑まれようとも…
…この世で最も大切な者を守るために、俺はこの道を選んだんだ。
そして…望んでいた長年の願いは達成された。
弟との戦闘で、もはやチャクラも尽きてしまった。
ボロボロになった身体を叱咤して、壁まで追い詰めた弟に近付く…。
最早、人の輪郭だけしか分からないぼやける視野を頼り…弟の顔へ手を伸ばした。
目をとられるかと思った弟は、威嚇するように険しい顔をしていた。
俺は…そんな弟の額に人差し指と中指でトンッと叩いた。
「許せ、サスケ……これで最後だ」
せめて最後は…笑って逝きたい。
サスケ……お前だけは一族の柵に囚われずに生きてくれ。
血を分けたたった一人の家族の幸福を願い、一人の忍は…生涯に幕を下ろした。
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