裏・御伽草子

□【7】霊光の祈念
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イタチは、談話中のヴァンスとリエを気遣い、書斎の机に封筒の束をおき、足音を立てずに出ていった。

少し休憩を取ろうと思い、廊下を歩いていると、縁側で寛いでいる仲間と遭遇。


「あっ、おかえり」

「イタチさん、おかえりなさい」


イオンとさくたろうは、まだ湯気の立つピザを分け合うように口に入れていた。

はふはふと熱いのを我慢して、口にもごもごとパン生地を運ぶさくたろう。

小さいライオンのぬいぐるみが、ピザを一生懸命ほうばる姿は、摩訶不思議で愛らしい。


視線を庭に移すと…白いビックファーザーこと、白ピヨ(本名:エドワード・ニューゲート)が、

大きい麦わら帽子を被って作業していた。


氷の塊を薙刀を使って、シャリシャリと器用に削っている。

削られて、キラキラときめ細やかな粉末が、下に設置されている硝子器に山盛りに積もっていく。


「おぅ、小僧ども。出来たぞ!」

「「はーい!」」


エドワードの合図で、一斉に庭へ飛び出すイオンとさくたろう。

手には、自分専用のプラスチック製の器。

氷の粉末が大量に積もった硝子器から、スコップを用いて、

適当に掬いあげ、自分の器に盛っていく。


それから、縁側に戻り、机に置いていたシロップをかき氷にかけて、

スプーンで掬ったそれを口へと運ぶ。



「あまーい」

「うりゅ〜、ひえひえだ〜」


「グララララ、夏といえば、氷菓子とうめぇもんと酒が定番だ!

そうだろう!」



子どもたちがかき氷に夢中になる姿を上機嫌に眺めながら、

エドワードはピザまるまる一枚分を、ひょいっと口に放り投げ収める。

彼が地べたで座るところには、風呂敷に敷かれており、その上にはピザ以外にも、

新鮮な刺身やてんぷら等の御馳走が並んでいた。


大きな酒樽を開け、上等な酒を大きなビールジョッキに注ぐ。

いっぱいになったそのジョッキを片手で持ち、グビグビと旨そうに飲む。



「ぷはー、うめぇ〜」


「あまり飲みすぎない程度にした方が良いですよ。

御身体に差し障ります」


「グラララララ、好きなもんを好きな時に飲めねェのが一番、毒なんだよ。

おめえも一杯飲め」



そう言いながら、酒樽のひとつをごろりと片手で回し、イタチに差し出す。

エドワードの周りで、わらわらと通常のビールジョッキに群れるピヨ達も「のめ〜!」と誘う。

イタチは、軽く会釈すると風呂敷の近くに置いてあった空のコップを拾い上げ、勧められた酒を注ぐ。

ゴクリと一口飲む込むと、口内になめらかな味わいが広がる。


「大吟醸【緋露草】…豊潤な味ですね」

「こいつの味が分かるとは、お前もなかなかいい舌してるじゃねーか」


エドワードは、ニヤリと笑みを浮かべて赤み魚の刺身を数切れ、口に入れる。

若干、コップに残る酒…。

動かせば、ユラユラと穏やかな波のように揺れ動く。


透き通った水面に映るのは、己の顔…。

鮮血色に染まる両眼――

――この眼が…自分の人生を大きく決定づけてしまったのだ。

一族をこの手で消し去らなければならなかった

…憐れな一人の『忍』の運命を。








『イタチ、この子が貴方の弟よ』


蝉が盛大に鳴く夏の日だった。

俺は兄となった。

にこやかに微笑む母に抱きかかえられた小さな命

――――弟の【サスケ】。



『イタチ、抱いてみなさい』


厳格な父が、この時は穏やかな表情で俺に弟を抱かせてくれた。

まだ、幼かった俺はぎこちない手つきで必死に弟の頭を支えながら抱きかかえた。

生まれたばかりの弟は…重くて…温かかった。


この時、俺は誓った。

どんな事があっても、弟を…サスケを守ろうと。




◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇




『兄さん、今日も修行につきあって!』

『ああ』


弟は元気に成長していった…。

任務をこなす傍ら、弟と忍術の修行をするのが日課であり、俺の楽しみとなった。

いつもと変わらない平和な一時…。


『イタチ…』


同時に、穏やかな日々に陰りが見え始めた。

父が意味深気な眼差しで俺の名前を呼ぶのは、その予兆だったかもしれない。


木の葉里と俺の一族との間には、この里の創世時代からの確執があった。

もともと、違う部族間で統合する際に、代表者の二人…初代火影様とうちは一族の指導者の覇権争いが始まりだった。

結果…初代火影様が勝利し、うちはは彼を支える名誉職に就く事となるが、双方に【溝】を残してしまう。



年月を経て、争いの火種が再び勃発する事態が生じてしまう。

16年前に起こった『九尾の妖狐襲来事件』

木の葉里の大半が破壊され、多くの犠牲者を出した。


その水面下で、里はうちはに『疑い』をかけた

…里の主権を手に入れるために九尾を操ったという『疑い』を。

俺達の一族が所有する【写輪眼】には、九尾を操れる程の瞳力を持っていたからだ。


この時、俺は木の葉の暗部に所属していた。

木の葉とうちはの間に、見えない摩擦が走っている事に気付いていた。


願っていた。

どうか、両者の関係がこれ以上、悪化しない事を。

言葉に出して言えない分、心で強く願った。


けれども、運命は非情な結論を下した。

俺が…最も怖れていた事が起こってしまった。

父を筆頭に…一族がクーデターを起こそうと目論んだのだ。



『イタチ…お前は一族と里の中枢を結ぶパイプ役だ』


『このままでは、うちは一族は里に滅ぼされてしまう…。

一族の存亡がかかっているのよ』


のしかかる両親の言葉…。

当たり前の平和が、目の前から蜃気楼のように遠のいていってしまう。

奈落のどん底に落とされた感覚だった。





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