裏・御伽草子

□【6】月夜の舞台に、来訪者は騒ぐ
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一方……大量のダスク達との戦闘を繰り広げる、この屋敷の主の部下達の目を盗み、侵入に成功した複数の影。

その中の一人、音楽青年―――デミックスはキョロキョロと辺りを見回しながら、慎重に忍び足で屋敷内を探る。



「デミックス…早く行こうよ」


「ちょっと待てって!

はぁ〜、なんで俺達、こんな役回りになったんだろう…」


「仕方ないだろう…ゼムナスが指示したんだから」



今回の任務のパートナーは、機関で数少ない鍵使いの少年と……


「……はやくいくぞ」


ボソリと必要最低限の言葉しか話さない機関一の大男だった。

そもそも…この三人が、この屋敷に浸入する羽目になったのか…。

さかのぼる事二日前、シグバールが仕入れてきた情報により、機関員全員が招集された。



『近々…あの男が、リエに本式契約を行使する…それが、お前の見解か』


『ああ、側近との会話をこの耳で聴いたんだ…。

あの男が天井に目を向けた瞬間は、まさに逃げるのに命がけだったってハナシだ』


『早急に手を打たねばならない…』



その呟いた声は、重く…相手を見えない糸で拘束するように機関員全員に降りかかる。


『これより…この任務を遂行するメンバーを選出する』


ちなみに、メンバー選出方法は、あみだくじであった。

その結果…選ばれたのが、デミックス、ロクサス、レクセウスであった。


「なんでこーいう厄介な任務の時だけ、くじ運が良いんだろ…俺」

「……静かにしろ、いつ…ヴァンス殿があらわれるか分からん」

「ヴァンスさん、強いからな」


レクセウスとロクサスの言葉通り、ヴァンスの強さは、機関員達の間でも一目置かれていた。

何しろ、あの指導者さえも、全力で戦おうと互角になるか否かの力量だ。

それだけ、ヴァンスの戦闘能力は最強クラスである事を意味していた。


はっきり言うと、デミックスは怖くて仕方がない。

なにせ、あのおっかない上司すら敵わない男性の根城に不法侵入しているのだ。

仮に、彼の生命力が最大限MAXだろうと、逃げ足のスピードが超人並だろうと、生きた心地が全くしない。


過去何回か、ヴァンスと出逢った事があるため、彼の底知れぬ【力】を目にしているのだ。

彼を思い出す度に、デミックスは全身が痙攣状態になりかかってしまう。


「マジでこの任務おりたい…」

「しっかりしろよ! ヴァンスさんは確かに怖いけど…話せば分かる人だよ」

「武人として、一度、彼と手合わせしたい」


困った事に、同行している二人は、ヴァンスに対してデミックスとは対照的の念を抱いている。


ヴァンスは、人を選んでいる

…というか、ぶっちゃけ、彼の好みに合わせて、相手に対する態度もかなり違うようだ。

自分の目に適えば、普通に会話の数が増えるが、その反対の相手ならば、興味すら持たない。


ちなみに、嫌いな相手に対しては殺気以外は視線も合わせようとしない。

完璧に必要最低限の挨拶以外は、即刻スルーする。


デミックスは、どちらかといえば【普通】に部類されている。

つもり、興味対象でなければ、嫌いな分類でもない――――中間あたり、という微妙な立場なのだ。



音楽青年本人は、あまりにもヴァンスに対する恐怖の念が強いために、

自分が抹殺対象に入っているのでは、と誤解しているようだが。


「……なぁなぁ、れくせうす〜。先頭立ってよー」

「別にかまわんが…俺の背中を強く押すのはやめてくれ」


眉根を寄せつつ、後輩が背中を押すのを抗議するレクセウス。

最後尾に居るロクサスは、「そこまで怯えるかな…」と目を細めながら、弱腰の先輩を見つめる。


だが、三人の間に緊張が走る事態がほどなく起きた。

瞬時に、ざわめく荒波の様に全身を浸食する濃い闇が足元を覆い始める。


「なんだ…これッ…」

「さ…さむい…マジでやばい…」

「二人とも…気をつけろ。敵はすぐそこにいる」


気分が悪くなる二人に対し、レクセウスは前方を見据え、アックスソードを取り出し、構える。


《ディアスの言う侵入者とは…そなたらの事か》


薄らと漂う闇が、徐々に吸い込まれるように彼らの前方に集約していき、やがて人型を形成し、具現化する。

その闇から現れたのは、女性だった。

透き通った海水の様な髪色の長髪をポニテールにし、漆黒のロングドレスに身を包んでいる。


仮面をつけて、ハッキリと顔は分からないが、輪郭から把握しておそらく美人に相当するだろうと、レクセウスは思った。

その女性―――シュヴァルツは、ゆっくりと口を開く。


「……そなたらの目的は、ディアスか…それとも《寵妃》か」


《寵妃》という単語を耳にした三人の脳裏に、リエがよぎった。


「その寵妃は…こちらにいるのだな」

「いかにも…だが、私はディアスとの契約の名の下に、此処から先、そなたらを通すわけにはいかない」


シュヴァルツはそう言うと、片手に具現化させた黒色の長槍を手にする。



――――カキンッ!



耳元に聞こえてきた金属音に、パッと後ろを振り返るデミックス。

目に映る光景は、後輩のロクサスが、キーブレードでいつの間にか、移動していたその黒い衣装の女性の刃を受け止めていた。


「二人とも早く! 此処は俺が食い止めるから!」

「ロクサスッ!」

「いいから…リエさんの所に行ってくれ!」


その言葉を聞き、レクセウスは「分かった」と呟く。

彼は、オロオロと判断に困っている音楽青年の首元を掴むと、その場を走り出した。



「自らを犠牲にするか…人から生まれし影の子よ」


「俺は、あんたに勝てるか分からない…。

でも、負けるつもりは絶対にない!」



ロクサスはキッと眼前の女性を睨みつけると、もう片方からもう一本のキーブレードを取り出し、駆け足で立ち向かっていく…。

光と闇――――双方は激突し、まばゆい異なる白黒の火柱が辺りを包んだ。





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