裏・御伽草子
□【1】遠い日の記憶
3ページ/4ページ
「ヴァンス! 朝だよ。起きて!」
煩い声が耳に嫌と言うほど聴こえてくる。
重たい瞼を薄らと開けると、視界に映し出されたのは妻ではなく…黄緑色の髪の子ども。
一度上半身を起こして、その子ども…イオンをぼぉーと見つめるヴァンス。
「…うるさい…ねる」
ヴァンスは、再び瞼を固く閉じてゴロンと敷布団に寝転がる。
「起きてよ! もう朝食の時間だよ」
「……先に食べてろ」
「そんな事したらイタチが怒るだろ!」
「……俺が許す。飯食え」
ゼェゼェと息を切らしながら、イオンは自分の主人を叩き起そうとするが、全く歯が立たない。
その主人であるヴァンスは、心地よく寝息を立てて2度目の夢路へと向かいつつある。
その時…部屋の襖を素早く開ける音が響く。
ヴァンスのもう一人の部下である、うちはイタチが姿を現した。
イタチは、眠りにつく主人の布団の上で跨りながら、懸命に起こそうとしているイオンを見て溜息を洩らす。
「イオン…お前は先に行っていろ。俺が起こす」
「……はーい」
イタチに言われた通りに、イオンはその寝室から出ていく。
遠ざかっていくその部屋を振り向きながら、イオンは呟く。
「今日も響きそうだな…あの音」
彼の呟きが現となったのは、それから数分後の話。
カンカンと耳障りな金属音が、その部屋から聴こえてくる。
「ヴァンス様、お目覚めになりまし…」
「……煩い、ド阿呆!」
それを追うように、部屋から一瞬、ピカッ、と一筋の光が見えた瞬間、灰色の煙と物凄い爆発音が鳴り響く。
それを離れた処で、イオンは傍観しながら呆れていた。
・