運命を覆すダイス
□プロローグ
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もう何年経ったか…。
一国の統率者でなく、船乗りの駆け出しでまだ外の世界への純粋な憧れを持っていたあの頃…俺は、一人の女性とあった。
彼女は少しお堅い所はあるけれど、とても聡明で強く美しい人だった。
黒寄りの藍色のすらっとした長い髪。
エメラルドを連想させる翡翠色の瞳。
『紳士たるもの、如何なる時も冷静を保ち、周囲を気遣う心を持たなければいけないのよ』
紳士とは…という出だしから始まるのが彼女の口癖だ。
普通は「口煩いな」と鬱陶しく感じてしまうものだが、彼女の場合はそんな感情は抱かない。
むしろ、恩師が教え子を諭す様なそんな感じだ。
『いつか、みてみたいわ…この世界が平穏な時代を迎えるのを』
彼女は祈っていた。
貧困、差別、戦争で混沌したこの時代に、平和がくる事を。
『…私の料理が、少しでも色んな人達のささやかな希望になれたらいいわね』
彼女は願っていた。
「おいしい」と心の底から感じる料理に、種族も国境も関係ない。
王族だろうと、貴族だろうと、庶民だろうと、奴隷だろうと…そこにいる皆の心が一つになれるその瞬間をつくりたい、と。
『シン君…これから貴方は辛くて悲しい困難に何度か直面するかもしれない。でも…貴方はそんな苦境に負けずに前へ前へと歩んで行ける勇気がある。
民が苦しまず、誰もが平和に暮らせる国をつくってね。民を想う良き指導者になれる様に祈っている…』
―――約束したんだ。
いつか、彼女がこの世界に帰ってくるその時がくるまでに。
俺が…俺を信頼してくれる仲間たちと一緒に身分なんて関係なく、皆が平和な国を築こう、と。
彼女―――コゼットが…エクレシアが安心して暮らせる居所をつくりあげようと!
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