運命を覆すダイス

□第2章:長期任務の幕開け
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「シズク?」

「その子…」


ふーちゃんを目にしたシズクは、彼女へ近寄る。


「知ってるのか? シズク君」

「うん、一応ね」

「一応…?」

「直接会うのは初めてだもの。写真でしか見た事ないし…」


二人に対しそう答えると、シズクはふーちゃんの頬をぷにぷにと指でつつく。

ぶぅーと気持ちよさそうに目を細めるこねこにんに、シズクは口元を緩やかにする。


「直接…写真って…」


ルドガーは首を捻る。

つまり…雑誌か何かで見かけた事があるって意味だろうか?


「この子、モデルなのか?」


見た目も愛らしいし、マスコットキャラのような服装もしている。

エレンピオスの主婦や新米ママの方々に人気の『エッグクラブ』や『ピヨピヨクラブ』などの育児雑誌の表紙に出てきそうだ。


「違うよ、この子は…」

「ミーチョ」


シズクが返答を言いかけようとしたその刹那、誰かが聞きなれない言葉を呼んだ。

ふーちゃんの目はその言葉を発した主の方向へ向かう。

つられて、ルドガー達もその方へ視線を移すと…


「「「「あっ(ええっ―――)!」」」」


四人の声を見事重なり合った。

何故、彼等が驚きを露わにしたのかと言うと…


「む…」


あのクリニックの事件で知り合い、奇妙な現象に唯一遭遇しなかった人物―――リゾットがそこにいたからだ。


「りぞしゃーん!」


ふーちゃんは嬉しそうにトコトコとリゾットが佇むマンションの入り口へ歩を進ませていき、彼の脚にしがみつく。

リゾットは足元にピタッとくっつくその子を抱き上げると肩にのせた。


「ミーチョ、何故此処に?」


リゾットは、こねこにんにそう尋ねていると、フードに器用に乗っかった金色の毛並みの雛にも気づき、漆黒で覆われた目を幾分か細める。


「あしょぼー」「ぴぃー」

「…なるほど、な」


至ってシンプルな子どもらしい回答(雛の方は不明)に、リゾットは納得したようだ。


「あの…」


ルドガーがタイミングを見計らい、声をかけてきた。


「久しいな。またこうして会えるとは思わなかった」

「リゾットさんも無事で何よりです」


シズクが、再会できた事が嬉しいと伝えると、リゾットは「グラッツェ」と返した。

どういう意味かは、ルドガーとシンには分からないが、おそらく御礼を言っているのだろうと推測した。


「ところで、リゾットさんは何故此処に?」

「最近、このマンションに住み始めたからだ。そういう…君達は?」

「その人達は、私が呼んだんですよ」


後方から聞こえてきた別の声に、全員の視線が集中する。


「どーも」


白衣のポケットに手を突っ込み、別の手を軽く振るウサギ仮面がそこにいた。




【あたかも引き寄せられたかのように】




「「リーシェさん!」」

「ウサギ仮面さんだ!」

「………」


リーシェの登場に、ルドガー達は思わず声をあげる。


「……成程、お前の知り合いか」

「まあ、そんなもんっすね」


リゾットの呟きに、リーシェが軽い口調で答える。


「あの、リーシェさん。兄は…」

「ルドガーさん。その件に関しては奥で話しましょう」


リーシェは、周囲にいる人々を気にしながら、マンションへ入るのを促す。

確かに…此処だと話がしにくい。

リーシェの誘いに、ルドガーはこくりと頷く。


「じゃ、行きましょうか」

「はーい!」

「分かりました」


リーシェは白衣を翻して、マンションの中へ逆戻りしていく。

エルは元気良く、シズクは素直に了承すると彼女の後を追っていく。


「…シン」

「ん…いや、なんでもないさ」


先程から沈黙していたシンに、ルドガーは気遣うように名を呼ぶと、シンは「気にするな」と取り繕うように笑みを浮かべる。


「ぴぴっ、ぴぴぴ、ぴぴぴ」


二人が、マンションへ入っていく様子を眺めていたリゾットに、ふーちゃんの頭に乗っかっていた雛が鳴き声を出す。

あたかも『私達も行くぞ』と話しかけているようだ。


「……席を外した方がいいと思うが」


リゾットは、雛の言葉の意味が理解しているかのように言う。


「ぴぃ! ぴぴぴっ、ぴぴぴぴぴ!」

「りぞしゃん、いこー」

「…やれやれ」


ぴょんぴょんと跳ねてさも「早く行け!」と促す雛と、のんびりした声で促すふーちゃん。

リゾットは仕方ないな…と軽くため息を漏らすと、マンションの奥へと歩を進めた。





【つづく】



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