運命を覆すダイス

□第2章:長期任務の幕開け
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ルドガー達は保護した数匹の猫を、飼い主のココネ・ネココに手渡し、ウィンクルム社へ戻ってきた。


「あ、おかえり」


玄関口で、社員の少女…シオンと遭遇した。

挨拶をする彼女は、仕事時に愛用している黒いコートを着ていた。


「ただいまー、シオンは任務?」

「うん、これからね」


軽く会話すると、シオンは「じゃあ、いってきまーす」と手を振り、出かけて行った。


「いってらっしゃーい!」

「気を付けて」


エルとシズクも小さく手を振って彼女を見送る。

ルドガーは横目でその様子を見ながら、扉を開けた。


「あら、皆さん。おかえりなさい」

「リエさん?」


扉を開けるとちょうどリエが立っていた。


「ちょうどよかったわ。連絡しに行こうと思っていたんです」

「えっ?」

「先程、リーシェから連絡がありました」


「本当ですか!?」

「ウサギ仮面さんから!」

「彼女は今どこに!」

「リーシェさんの居場所が分かったんですか? 教えてください」


ルドガーは、兄との接触が唯一ある人物からの連絡にすぐに反応する

エルやシン、シズクもそれぞれの理由から色めき立っている。


「皆さん、落ち着いてください。ルドガーさん、リーシェからの伝言です」

「俺に?」

「“伝えたい事があるから、マンションフレールまできてほしい”との事ですよ」


ルドガーは目を見開いた。

まさか、直接本人から『会いたい』と指示されるとは思いもよらなかった。

だが、これはチャンスだ。

…リーシェなら、兄の行方を知っているかもしれない。

また、場所をわざわざ自分の住所を指定してきたのも…もしかしたら兄も一緒にいるのかも…と期待を抱いてしまう。


「行きます!」

「エルも行く!」

「俺もだ」

「私も行きます。また行方くらまされると困るし…」

「あらあら、そんなに急がなくても大丈夫ですよ、あの子は無闇に約束を破りませんから」


急ぐ彼等の後ろ姿を、リエはふふふっとにこやかに笑いながら見送った。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



十数分後、ルドガー達はマンションフレールへやってきた。

久しぶりに目にする自宅に、ルドガーは懐かしさを覚える。


「帰ってきたんだ…俺」

「ルドガーとルルのお家がココなんだね」

「なかなかいい所だな」


近づいてくるマンションフレールの外装を見ながら、エルとシンが感想を言う。

シズクはきょろきょろと辺りを見渡している…リーシェの姿を探しているようだ。


「…ウサギ仮面さんいないね」

「ああ…そうだな」


マンションに隣接している公園に目を向けるものの、遊んでいる近所の子ども達や高齢者がベンチに座っているだけ。

シズクの真似をして、エルもじぃーと目を細めてそれらしき人物を探してみる。


「もう中にいるんじゃないか?」

「だとすると…どこだろう?」


シンの言葉に、ルドガーは同意しつつ「大家さんに訊いてみようかな…」と思っていたその時…ある光景に目が留まった。

ブランコ付近で、小さな鳥がちょこちょこと移動していた。

この辺にはみない鳥だった…丸っこくて金の色の毛並みの雛。

すると、その雛の後を追うように、白い猫の衣服をきた子がトコトコとやってきた。


「うりしゃーん」


1歳くらいの幼児だ。

舌足らずな口調で、その雛を追いかける。


「ぴぃ、ぴぴっ!」


雛はその子どもの声に反応したのか、途中で歩きを止めると、ぴょんぴょんと高くジャンプして何かを呼びかけている。


「見かけない子か?」

「うん…新しく引っ越してきたところの子どもかな?」

「カワイイ子だな〜…ところで親御さんはどこにいるのやら」


シンの言う通りだ。

ここら辺はまだ治安はいいとはいえ、幼い子どもを一人で遊ばせるのはどうかと思う。

もしかしたら、迷子かもしれないし…。


「ああっ! かわいい〜vv」


エルも、その子に気付いて近付いていった。


「ねぇねぇ、何してるの?」

「ふぅ〜?」


エルに声をかけられて、コテンと小首を傾げるこねこにん。


「おねえちゃんはエルって言うの! 名前なーに?」

「ふーたん」

「そっか、『ふーちゃん』って言うんだー」


和やかに話をするエルとふーちゃん。

ついてきたルルも「ニャー」と挨拶代わりに軽く鳴くと、ふーちゃんは「ぷにぷにー」と言ってお腹をナデナデと触る。


「ルドガー、この子『ふーちゃん』だって!」

「仲良くなったのか?」

「うん!」


エルはその子の手を握り、ルドガー達のもとへ連れてくる。

子ども…ふーちゃんは大きな茶色の瞳をぱちくりさせて、ルドガーとシンを交互にみる。

ふーちゃんが追いかけていた雛も、いつの間にか彼女の猫の衣服のフードの上に乗っかり、二人をじっ…と見つめている。


「ふーちゃん、こっちはルドガー。そっちはシンって言うんだよ!」

「こんにちは」

「よろしく、小さなお嬢さん」


ルドガーとシンも腰を屈めてにこやかに笑って挨拶する。

ふーちゃんは両手をあげて「あーい」と言う。


「さて、小さなお嬢さん。君のお父さんとお母さんはどこかな?」

「ふぅー?」

「えっと…“パパ”と“ママ”。分かるかな?」


シンとルドガーが交互に、両親がどこにいるのか聞いてみた。

しかし、ふーちゃんはのほほんとした表情で「ぱぱー、まま〜」とルドガーが言った単語を繰り返すのみ。


「やっぱり、この年齢の子どもに訊くのは難しいのかな?」

「意外とそこら辺にいるかもしれないぞ。探してみるか…」


シンが、親探しをしようと腰を上げたその時、シズクが「あっ!」と驚いた声を出した。




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