運命を覆すダイス

□第2章:長期任務の幕開け
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「それでは…ココネ・ネココさん。ご依頼は【迷子のネコちゃん達の捜索】でよろしいでしょうか?」

「よろしくお願いいたしますぅー。ネコちゃんが見つかったらぁ、私のアパートの部屋までおくってくださーい」


ネコの帽子をかぶった猫なで声の女性の依頼人は、目をウルウルさせて懇願した。

依頼人と対話しているリエは、終始にこやかに対応している。


「今回は迷子のネコ捜索か…」

「ネコ捜したら、その子ルルとお友達になれるかな?」

「ナァ〜?」


今回の依頼内容に、ルドガーはうーんと考える。

エルは、探し出した猫がエルの友達になったらいいね、とルルに笑って話しかけると、ルルは不思議そうに小首を傾げる。


「ハハハ、ネコ捜しはいいが…」

「百匹も飼ってるなんて、あの人相当な猫好きなんだね。……あの猫撫で声はあんまり好きになれないけど」


問題は数だ…一匹ではなくて三桁単位の数なのだから。

冷や汗を流して苦笑いするシン。

シズクは真顔で「その百匹の猫って逃げ出したんじゃない? 多分…飼い主が原因で」とさらりと辛口な指摘をする。

隣の部屋で、各人が好き好きにコメントしているなんて、当の依頼人は全く知らない。


「皆さん、依頼がきましたよ」


リエがふふっと面白そうに笑って、ルドガー達のいる部屋へやってくる。

彼女から受け取った書類には、百匹の猫のそれぞれの特徴や性格が記されている。

ルドガーは、ぺらぺらと一枚ずつそれを流し読みすると、三人(と一匹)と向き合って口を開いた。


「じゃあ…担当決めようか」

「はーい!」

「ああ!」

「りょーかい」

「なーう!」



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



シズクが事務所の仲間となって、三週間経過した。

俺とエル、シンとシズク、ルルは事務所に舞い込んでくる依頼をこなしていた。

単純な書類作業、猫や犬捜しから、従業員の足りない飲食店などのピンチヒッター、イベントの裏方、魔物退治など…案外、広範囲なジャンルだ。

そんな中、俺は依頼で本来、就職するはずだった駅の食堂へ向かう事となった。

俺の代わりに、新しく就職した従業員が風邪で休む事となったための代理として。


「その節は、大変申し訳ございませんでした」


改めて、俺は食堂の店長に謝った。

店長は当初、無断欠勤して一度も顔見せしなかった俺に難色を示した。

当然だ…何の連絡もなく、別の企業の社員になっていたんだから。

だから、せめて代理の数日間は真面目に一生懸命働く事にした。


常連客や観光客でにぎわう満席の食堂。

接客と調理、常に時間に追われる環境の中で、たくさんの人が俺の料理を食べて「おいしい」って評価してくれる。

大変だったけれど、心は充足感で満たされた。

…この体験は絶対に忘れないでおこうと思った。


代理最終日には、店長に食堂の制服を返却して、お礼を言った。

その時、店長は初日の厳しい顔は大分和らいでいて、帰り際に「また、欠員が出たら頼むよ」って言ってくれた。


「良かったな」


同じく、代理従業員として働いていたシンが片目を閉じて笑って言った。

うん、どんな形であれ…食堂に働ける事が出来たし、きちんと謝罪できた。

これで、モヤモヤしていた蟠りも消えてスッキリした。



一緒に行動を共にしている事もあり、他の仲間の事も少しずつ分かってきた。


まずはエル。

俺達の助手のポジションの女の子だ。

エルの仕事は毎朝、社長…リエさんと事務所の掃除や、書類の整理と持ち運びをする。

任務の時は、ルルとアイテムを探したり、負担にならない程度の荷物を持つ係りだ。

俺とシン、シズクが戦闘の際には、アイテムを使ってフォローしてくれる。


「トーゼンだよ。エルはみんなのアイボーなんだから!」


意地っ張りなところはあるけれど、その分頑張り屋で可愛い所もある。


次にシン。

俺と任務でコンビを組む事が多い。

彼の剣技と変わった武術は、クランスピア社のエージェントにも引けを取らないレベルだ。

それから、多くの人を惹きつける魅力もある。

この間も、依頼で人探しをする事になった時…シンの隠された本領が発揮された。


「すまないが、お嬢さん…このお爺さんを見かけなかったかい?」

「お婆さん、その荷物重いでしょう? 手伝いますよ。あと、この写真の人とか知りませんか?」

「君みたいな美しい人に会えるなんて光栄だな…えっ、既婚者なのか…そう見えないよ。ところで、このご老人はご存じかな?」


シンは特に異性にモテる。

…というか、口説き文句と言い、女性へのエスコートの仕方に慣れている感じだ。

気付けば、周りにいる人達(女性の年齢を問わず)を虜にしている。

優しい上にルックスもいい。

男である俺ですらそう思う…羨ましすぎる。


「シンさんって…天然かどうかわからないけど、タラシだね」

「えっ…そ、そうかな…?」

「うん。あんなに女の人侍らせてたらいつか痛い目見るよ、きっと」


大丈夫かな〜とシズクは他人事のように言う。

真顔……表情を出さずに辛口コメントをするところがすごい。

シズクは見た目は、図書館にいるような大人しい雰囲気の女性だけど、戦闘は俺よりも慣れている。

デメちゃんっていう掃除機が武器なんだが…アレって道具なんだか、動物なんだか…どっちなんだろう?

シズクは、ペットみたいに扱ってるようだけど…真偽は未だに分からない。

あと、彼女は本職が「盗賊」という事もあってか、落ちているアイテムをサーチしたり、魔物からゲットする特技もある。

だから、魔物の毛皮や角なんかを入手する依頼は、シズクがいると90%の確率で成功する。


「おっ、ルドガー、シズク君…どんな話をしてたんだ?」

「シンさんが、いつか女の人に背中を刺されないかどうかって話です」

「ちょっ…シズク!」

「ガーン!」


ただ…時々、物忘れする事と毒舌な一面があるところがたまにキズだ。

しかも、本人にそのまんまの内容をばらしてるし…あ、シンがショック受けてる。


「なんで? シンって誰かに狙われてるの?」

「モテる人って、因果応報を受ける事も多いんだよ。エル」

「そっか。うん、パパも言ってた。『プレイボーイには気をつけなさい』って」

「またの名は“スケコマシ”とも言うね」


「し、シズク…それ以上言わないでやってくれ! シンが落ち込んでるぞ!」


きつい事を言うけれど…彼女、エルとは仲良くなってるし、いい所もある。

これで、シズクが盗賊団を脱退する意志が芽生えたらなおいいかな〜と言うのが本音だ。




なんだかんだで、俺はこの三人と時々、リエさんも参加して日々の仕事をしている。

兄さん…今どこにいるのか分からないけれど、俺は元気でやってます。


…早く、兄さんの消息が知りたい。

依頼の猫を数匹保護して、空を眺めながらそう思っていた矢先、事態は大きく動いていた。




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