裏・御伽草子
□【10】雨の日の吉報
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※時間軸はTOX2編終了後
※イタチが諸事情により暇を出された模様
※後半にある事実が判明
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俺には娘が二人いる。
髪と瞳の色以外はあいつの容姿を受け継いだ。
下のとは仕事関係でそれなりに付き合いがあるが、上のとは疎遠が続いていた。
最近になって、多少話す程度にはなったが…
相変わらず俺と向き合う上の娘の顔は対抗心に満ちている。
その代わり、血はつながらないが孫とその友である幼いエクレシアとは何故か親しくなってきつつある。
無理だと思っても、心の奥底にある願望は疼いてしまう。
まだ平穏だったあの頃に…
【家族】という絆が健在だったあの時に…
*** ***** ***
シトシトと雨が降り注ぐ。
冬から春へ変化する四月のこの時期、二週間前から天候は雨の連続だ。
雑用を終えたイオンとさくたろうはどこか居心地悪そうに、部屋の隅で大人しく本を読んでいる。
「………」
「………」
彼等の視線は時折、チラチラと反対方向にいる人物へ向けられる。
「………」
彼等の主…ヴァンスは今日も不機嫌極まりない空気を漂わせている。
眉を大いに寄せて新聞を読みながら、時折舌打ちをする。
(う、うりゅ〜…ヴァンスさん、今日もこわい…!)
(まったく…あんな調子じゃこっちも気分が滅入るのに)
ひそひそと小声で話すさくたろうとイオン。
主のご機嫌斜めな理由…このところ天候が悪い所為である。
ヴァンスは雨が嫌いだ。
これはイタチから聞いた話だが…
ヴァンスは生前、恵まれない人生を送っていた。
生まれた時に親に捨てられ、奇異な能力の影響で同じストリートチルドレンからもハブられ、常に孤独だった。
6歳の頃に、血のつながった父に見つけられたが、彼の息子に対する愛情は希薄であり、
異母兄にもしもの事があった際の代替品として育てられた。
腹違いの兄二人とも上手くいかず、唯一友好的だった義理の姉がいたものの、
ある時能力がバレてしまい、ひどく拒絶された。
そんなイヤな出来事がある時は決まって雨が降っていた。
自分の能力を受け入れてくれた妻という理解者と、娘と過ごした幸せだった時間も、
妻に執着した忌まわしい男により崩壊した。
その日も激しい雷雨が降り注いでいた。
(…どうしたら、ヴァンスさん機嫌よくなるのかな?)
(…晴れない限りムリだよ)
力を手に入れた今でも、ヴァンスは雨の日になると酷く焦燥感に駆られる。
朝の目覚めがより一層悪くなり、食事も進まない。
仕事をしたり、居間でサボっているグリードへ愛の鞭(という名の八つ当たり)をしても
心に出来た靄は一向に晴れない。
――――時計の時刻は午後1時32分。
仕事を一通り済ませて、新聞に目を通している。
しかし、鳴り響く雨音で気分の波は低空飛行のままである。
「……」
先程までいたイオンとさくたろうがいない。
どうやら、別の部屋へ移動したようだ。
…悪い事をしてしまった。
新聞をたたんで畳に放り投げると、ヴァンスは座布団を枕代わりに横になる。
昼寝する事にした。
眠ってしまえば、完全とは言わないまでも、ある程度心を落ち着かせられるからだ。
目を閉じて意識が夢路へ行きつつある最中…
♪♪♪〜 ♪♪♪〜
携帯の着信音が鳴りだした。
薄ら目を開け、忌々しく音を奏でる己の携帯をガッと掴む。
ピッと通信ボタンを押して耳に当てる。
「……もしもし?」
《…ご無沙汰しております。ヴァンス様》
電話の相手に、ヴァンスの目は微かに見開く。
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