裏・御伽草子

□【8】「強欲」の帰還、波紋呼ぶ情報
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「…なんだ、帰っていたのか」


背後から聞こえてきた声にパッと振り向くと、そこにはイタチが立っていた。


「おー、久しぶりだな。くそ生意気なイタチさんよぉ」

「相変わらず減らず口が絶えないな。お前は…」


ハッと鼻で笑いながら言うグリードに対し、イタチは至って冷静に言葉を返した。



「にしてもよ…あの侵入者の女、尋問するんだろ?

それ関係ならお前専門だろ。

部下に任せりゃ手っ取り早いだろうに…」


「…ああ、お前は初対面だったな。あの方とは」



イタチは、うっかりしていたと言わんばかりにある事を思い出した。

グリードは、まだ主の本妻とは面識がないのだ。

イタチのなにやら含みのある言い方が気になったのか、グリードは「ああ?」と眉を顰める。


「あの侵入者は…ディアス様の御方様だ」

「へっ? はっ? マジかよ!?」


グリードは素っ頓狂な声を出して驚愕した。

イタチはふむ…と顎に手を当てて思案する。



(ヴァンス様は、おそらく地下室へ行くはず…。

そうなると今度こそ、奥方様に【本式契約】を刻む可能性は高いか)



仮に、今回の契約をかわす事に成功したら、リエは完全にこちら側の《人物》となる。

正式にヴァンスの【妻】として、この屋敷で住まう事となるはずだ。



(今後の対策として、コゼット様とリーシェ様…エクレシアや13機関の奪還対策に重点を置くべきか。

他には…)


「…っておい! 俺の話を聞いてんのか!」



ふと、耳元にグリードの怒鳴り声が響いてきた事により、イタチはハッと視線を彼に向ける。



「どうした?」


「チッ、やっぱ聞いてなかったのか…まあいい。

今から報告する事、あのムカつく破壊神に一言一句逃さず伝えやがれ!」



舌打ちしながら、グリードは仕入れてきた情報を説明し始めた。

その情報を聞いていく内に、イタチの表情は徐々に険しくなっていく。


「それは本当か?」

「間違いねえ…少なくとも、近日中にこの屋敷は襲撃されるのは高確率だ」


グリードの声音は一切の迷いがない。

それは、彼が絶対的な自信を持ち、その上で【真実】を口にしている事を意味している。


「ま、あいつの事だから、さして問題にはしないだろうけどな…」


ハッと鼻を鳴らして面白くなさそうに呟くグリード。

その一方、イタチは真面目な顔で考え込んでいた。


グリードが入手した情報とは…世界と世界を繋がる【ルート】が開いたこと。

その【ルート】の出現により、エクレシアやセクエンツィアの力を狙う輩が水面下で動いていること。

…それ以上に厄介なのが、この機に乗じてヴァンスを倒そうとする勢力が何かしら仕掛けてくる可能性があることだ。


「あいつ個人を狙っている奴らもいそうだな」


ヴァンスは、これまで数多くの世界で暗躍し、自らの信念に基づき行動をしてきた。

彼の手により壊滅させられた勢力もあるため、私怨の念を抱いている輩もいるに違いない。



「…で、どうすんだ?」

「至急、緊急会議を開く。お前も参加しろ」


「命令かよ…めんどくせーな」

「さっさと他の者達を起こして来い、【グリリン】」


「ってこらぁああ! その名前で呼ぶな!」



半分、からかいも含めて呼んだその【呼び名】にグリードは大いに吠えた。

時刻は午前2時半…。

静かな夜に【強欲】の名を持つ仲間の声が響き渡った。





【つづく(?)】


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