裏・御伽草子
□【7】霊光の祈念
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「…タチ、イタチ!」
少年の呼びかけが耳に入り、ふと回想から現へと引き戻された。
視線を後ろへ向けると、イオンが「何ボーとしてるんだよ!」と呆れ顔で佇んでいた。
「すまない…。少し考え事をしていた」
「おい、イオン…そう急かすんじゃねぇ。
言いたい事があるのは分かるが、イタチもここんとこ急務で疲れてんだ。
ゆっくりさせてやれ」
エドワードが諭すように言うと、イオンは仕方なさそうに「ごめん…」と呟く。
すると…主の部屋にいたはずのリエが廊下を歩いてやってきた。
「皆さん、お茶菓子をつくりました。如何ですか?」
ニコリと穏やかな微笑みをして言った言葉に、イオンとさくたろうはわーいと大喜びする。
エドワードの周囲にいるピヨ達もピョンピョンと跳ね上がったり、両手でハイタッチしてハイテンション気味だ。
「グララララ、嬢ちゃん気がきくじゃねえか」
「エドワードさんも如何ですか?」
「その言葉に甘えさせてもらうぜ」
エドワードは了承の意を示した。
リエは、次にイタチに同様の質問を投げかけた。
「イタチさんはどうしますか?」
「すみません…奥方様。
少々片づけなければならない用事がありまして」
申し訳なさそうに言うイタチに、リエは嫌な顔をする事無く朗らかに「わかりました」と頷いた。
イタチは軽く会釈すると、屋敷へ入り、そのまま自室へと戻って行った。
「イタチ、どうしちゃったんだろう?」
「うりゅ…様子が変だね」
イオンが不思議そうに首を傾げ、さくたろうが心配そうに呟く。
リエとエドワードは、彼の妙な態度に何か察しているのか…
敢えてその後ろ姿を無言で見送った。
簡素な自室に入ると、イタチは先程懐に入れた手紙を取り出した。
その手紙の裏に記載されている送り主の名前に、懐かしそうにけれども複雑な眼差しを送る。
――――【うちはミコト】
実の母親が如何にして、息子の居場所を特定したのか…分からない。
その手紙の封を開けて、その内容に目を通したイタチは言いようのない思いに駆られた。
「母さん…すみません」
切なそうに呟くと、その手紙にぼぉと火がついた。
徐々に火に包まれていき、白い紙が黒へ変化していく
…そして1分もたたらない内に灰と成り果てた。
手元に残った灰カスを名残惜しそうに眺めながらも、ゴミ箱へ捨てた。
(……これでいい。もう俺は…戻れないのだから)
平穏なあの時を懐かしく思えど…時の針は二度と戻せない。
だからこそ…俺は、【今の居場所】を守るために生きていく道を進む。
新たな【願い】のためにも…。
【おわり】
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