裏・御伽草子
□【6】月夜の舞台に、来訪者は騒ぐ
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逃走してしまった妻のいた場所を静かに見つめながら、ヴァンスは隣で欠伸をする次女に言う。
「……余計な事を」
「すみませんね。私は好きな優先順位で行動しますから」
悪びれる様子も無く言うリーシェに、ヴァンスは目を細める。
「なら…その優先順位の中に、俺も含まれていると自惚れてもいいのだな?」
「案外、上位にいますよ。父さん」
娘が含み笑いしながら言う言葉に、ヴァンスはフッと口元を吊りあげる。
踵を返して、元来た所へ戻っていく
…その途中で振りかえらずにある言葉を言った。
「本式契約を完成させたら…あいつと正式に籍を入れる」
「おやおや、母さんを手元に置き、離さないおつもりですか?」
「……下衆な烏合共に、汚染される位なら【籠】に入れた方がマシだ」
「自己中ですね、父さん」
「なんとでも言え…。俺は自分のやりたい事をやるだけだ」
その言葉は、決して軽い冗談ではない。
ヴァンスは己が掲げた事を本気で実現させるつもりだ。
例え、それが他者の意に反する事であろうとも反感や恨みをかうだけの覚悟を決めているからだ。
リーシェは、皮肉を言うものの、父親の考えに異を唱えはしない。
少なくとも…父であるヴァンスの考えに共感できる面もあるから。
強い覚悟がなければ、求めるものを手に入れる事ができないのだと理解しているから。
遠くなるその張本人の背中を一瞥するリーシェは、この先…父と母が分かち合う日はまだ遠いと俄かに感じたのだった。
その頃…リエ達は、無事に13機関の居城へ辿り着いていた。
「もうやだ! あんなところに二度と行きたくない―――!!」
「また…闘いたいものだ」
帰ってくるなり、デミックスは味わった恐怖体験から大泣きし始めた。
これ以上、ヴァンスと関わる任務を御免こうむりたいとサイクスに懇願した。
レクセウスは、エドワードとの拳の語り合いが忘れられず…
いつか再戦する事を切実に願っている様子。
そんな中、目を閉じていたロクサスは薄らと目を開けた。
アクセルとシオンが心配する光景を目にして、眠たそうに目を擦りながら首を傾げる。
あの後、何があったのか…
何故城に戻っているのか…
頭に疑問符がたくさん浮かんでいたのだった。
各々が騒ぐ一方、肝心のリエは…一段落した安心感で眠りについていた。
夢にでてくるのは――――リエの大切な『あの人』。
今は…分かり合えるにはまだまだ道のりがとてつもなく遠い段階。
それでも、リエは信じている。
いつか…夫婦が共に歩める事が出来るのを夢見て。
こうして、長い夜の騒動は幕を下ろし、新たな朝が訪れる…。
【おわり】
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