裏・御伽草子
□【5】First contact《差しのべられた手》
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ガラクタ……
どいつもこいつもみんなガラクタ。
この世界は…『ガラクタ』でできているんだ。
【First contact《差しのべられた手》】
僕の名前はイオン。
ハーフ・オーブで、次世代の破壊神・邪神の卵である【カオス・クオーツ】 ヴァンスの部下の一人。
今日は、独りで隠れ家の護衛を任されている。
…といっても、こんな場所に侵入する輩は最近ではほとんどいない。
家と庭の掃除も終わったし、やることがない…すっごく退屈している。
「本でも読もうかな…」
住居の縁側で横になっていたイオンは、起き上がると、ヴァンスの書斎へ行った。
――――《 ヴァンスの書斎 》
1ヶ月前に、改装したばかりでまだ壁や本棚が真新しい。
その本棚の中から、イオンは適当な書物を取り出していく。
「あっ、これ…【夢幻物語】の第2巻だ」
ヴァンスは、1ヶ月おきに気に入った書物をまとめ買いする習慣がある。
それを読み終えたら、部下に閲覧許可を与えているのだ。
【夢幻物語】は、ヴァンスの愛読書のひとつだ。
なぜ彼がこのシリーズを好んで読んでいるのかは分からない。
でも、彼がこの書物を読んでいる時に、とても穏やかな表情になるのを、身近にいるイオンはよく知っている。
「折角だから、読もうかな」
まだ1巻しか、読んだ事のないイオンは、高揚感にかられながら、その第2巻の表紙を開いた。
イオンがその物語の中巻を読んでいる際に、ある箇所を見て、頁を捲ろうとする手を止めた。
『…僕は自分のした事に一片の後悔もない。
例え何度生まれ変わっても、必ず同じ道を選ぶ』
物語の主人公の仲間である客員剣士の少年が、作中で主人公に言い放った言葉…。
その剣士は、大事な人を人質に取られ、主人公たちと対峙する事となる。
だが、主人公の一喝で自分の背負っていた苦しみから解放される……。
共に黒幕を追おうとした矢先、落盤から仲間達を助けるために自らを犠牲にしてしまう。
「生まれ変わってもか……」
この剣士は、そのような大それた発言をするくらい…
…自分の傍にいてくれたメイドの女性が【大切な】存在だったのだろう。
僕は、仮に生まれ変わったとしても…もう、あの世界にだけは生まれたくない。
絶対に…ッ
◇◆◇ ◇◇◇◇◇ ◆◇◆
僕の生まれ故郷……惑星【オールドラント】
この世界には、預言《スコア》と呼ばれるものがあった。
預言とは、星の記憶…既に定められた運命を刻み込んだものだ。
【定められた運命】…ハッ、馬鹿馬鹿しいにも程がある!
――――預言なんて嫌いだ。
僕にとっては、聴きたくも触りたくもない忌々しいモノ。
僕の《運命》を勝手に決め付けた、おぞましい存在。
僕は、そんな代物を重宝するローレライ教団の最高指導者だった。
――――両親の顔なんて知らない。
幼い頃に、勝手に教団の関係者に連れてこられた
…先代の指導者が【預言】にあった僕の情報を読んで。
まだ物心つく前に、一度幹部の一人に自分がなぜ此処に居るのか、疑問をぶつけた事がある。
返ってきた答えは…くだらない形式的な愚答だった。
『イオン様は、預言により導かれたのです。
預言は我々の生き方を定める絶対的な教え…
イオン様は、その教えを紐解ける唯一の存在なのです』
…幼い僕は、そんな熱烈な信者の愚かな考えをただ鵜呑みするしかなかった。
そんな僕に転機が訪れたのは…正式に最高指導者に就任してから。
8歳という若さで導師(フォンマスター)に即位した僕は、周囲の過度な眼差しに苦痛を感じていた。
生活や心の拠り所のために、預言を求める民衆の《羨望》と《期待》。
異例の若さで最高指導者となった一部の教団関係者の《嫉妬》と《不安》、そして《畏怖》の目…。
【教団】というある種の鳥籠の中で過ごしてきた僕でも、知識だけでなく、俗世に纏う欲望と感情を短い期間でその身で学んできた。
――――息苦しい…早く、独りになりたい。
この時、僕の周りには、気を許せる人物は誰一人いなかった。
みんな、僕の事を『導師』としか見ないから…
『イオン』という僕自身を見てくれないから…。
即位後、僕は導師として初めて、民衆のために預言を詠む仕事を始めた。
信者の一人一人に預言を詠む事で、贈られる感謝と要求の声…。
最初は、それを聞くたびに「よかった」と至福感で満たされていた…と思う。
でも…だんだん信者の声を聞いていく内に、気づいたんだ。
『イオン様、私の病はいつ治るのでしょうか?』
『イオン様、いつになれば私の婚姻は決まるのでしょうか?』
『…イオン様、どうか一年の預言を…』
『イオン様、預言を頂いた通りに…今年はあきらめました。
でも…私たちの間にいつかは子どもは生まれますよね!?』
民衆は、ひたすら預言の内容通りに、自己の生活を順守しようとする。
日常生活の些細な事から…結婚、成人、健康面の問題…
まだ生まれてもいない子どもの人生まで…。
まるで亡霊にとりつかれたかのように、人々は必死で僕に預言を求める。
預言がなければ、何もできない…。
いや…違う。
預言こそが…人々を縛り付けている『元凶』そのものなんだ。
この時、僕は改めて実感した。
――――預言という名の《麻薬》と人々を陥れるその恐ろしさを。
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