裏・御伽草子

□【4】未来に繋がる邂逅
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形勢が逆転した…

少なくとも、この場にいたユーリとラピードはそう感じている。

しかし、男は自らの不利な状況にかかわらず、声をあげて笑い出した。



「フッ…ハハハ」

「なにが可笑しいんだよ」


「面白い、お前に【それ】を手にする資質があるとはな」

「……どういう意味だ?」



怪訝そうに問いかけるユーリに、男は視線を合わせて呟いた。

刃物を突き付けられても、全く動じず、余裕の態度を貫く男にユーリは逆に冷や汗をかく。


「…いいだろう、お前には此処に入る許可を与える」

「はぁ? なんでそうなるんだ」


急に態度を変えて、この世界への訪問を許可された事に、ユーリは呆気にとられる。

男は、意味ありげな含み笑いを絶やす事無く、次の言葉を紡いだ。


「ああ、そういえば名を言ってなかったな」

「そういやそうだな…」


ユーリが、男の言葉に同調した時…ふと自分の体が透けている事態に気がつく。

同時に、隣にいるラピードも徐々に透明になってきている。



「なっ、これは…!」


「どうやら時間切れのようだな…まあいい。

お前からの質問は、追々此処に来た時にでも教えてやるよ」


「おい…ちょっと待て、俺はもうこんなところに来たくねーぞ」



面倒くさそうに文句を漏らすユーリに、男はフ、と口元を緩め、今までとは異なる柔らかい笑みで言った。



「お前が拒むにしろ、俺達は【縁】を繋げてしまった。その状況を変える事はできん」

「じゃあ、即刻その縁を切ってやるよ」


「即答だな、若造」

「当たり前だ。あんたと関わるとロクな事にならねー気がする」


「ククッ、お前のその勘はあながち外れてはいないな」



面白そうに現状を楽しむ男。

それとは対照的に、ユーリは苦々しい表情を露にしている。



「ともかく…俺はもうあんたと会う気はねぇよ。じゃあな」

「…おい、若造」



去り際に、男が声を出して呼び止める。

ユーリが振り返った時、男はあるモノを放り投げた。反射的にそれを受け取ってしまう。


「出会った記念だ、とっておけ」

「……なんだこれ」

「後々、才能を開花させたら自然と分かってくる」


次第に半透明になっていくユーリに、男は別れ際にこう言った。



「俺の名はヴァンス…

…今度来る時は土産でも持参してこい」


「誰が持ってくるもんか。2度と来ねーよ」



そのように悪態をついた直後、ユーリは夢路から姿を消した。

ヴァンスは彼のいた場所を静かに見つめる。



「いくら、拒もうとも…

お前はいずれ、俺を頼らざる負えなくなるぞ。ユーリ」



彼の呟きは、そのまま空間に溶け込むように消えていった。




◇◆◇ ◆◇◆◆◇ ◆◇◆




ユーリは勢いよく、ベッドから起き上がった。

ハァとため息を漏らして、窓の方を見る。

まだ外は、明るい太陽が照っている午後の時刻。

意外と眠りについていた時間は短いものだった。


あの出来事は…本当に単なる『夢』だったのか。

眉間を手で押さえながら、冷静にあの出来事を振り返る。

『夢』と呼ぶには、あまりにもリアルな体験だった。


だが所詮は夢だ。

現実と空想の狭間で、真剣に悩むこと自体、おかしな事だ。

どこか胸がスッキリしないまま、ユーリはベッドから立ち上がる。


「気分転換でもしにいくか」


ちょうど、ラピードも起き上がり、彼に元へ近寄って来た。

いつものように、市民街へ徘徊しに外へ出よう…そうすれば気が紛れる。

そう思いながら、ユーリは壁にたてかけている武器を取り、腰に装着しようとした

…その時、ズボンのポケットに何か入っているのに気がついた。


今日はズボンには何も入れてないはず…

小首を傾げながら、そのポケットに手を突っ込んで、その中身を取り出した。


ポケットから出てきた物は――――

黒いコインに変わった模様が刻みこまれたデザインのキーホルダー。

それを目にした瞬間、ユーリは己の目を疑いながら、それを凝視しつつ手を震わせた。



「冗談だろ…これ」



彼の呟きはこの後、むなしくも覆される。

ヴァンスとの邂逅が、自分の運命を変化させる予兆であった事を…

この時点でユーリは予想もしていなかった。





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