裏・御伽草子

□【3】その客人、酔狂
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『人との交流』

――――俺の場合はそれがあまりない。


ましてや、俺の隠れ家に訪問する客なんぞたかが知れている。

俺目当てに来るのは、大抵が力を欲する阿呆共か、あるいは…【モノ好きな類人】限定だ。


『類は友を呼ぶ』

……それが現状にふさわしいことわざかも知れん。





【その客人、酔狂】





本日は8月にも関らず、割と涼しげな気候だ。

俺が忠誠を誓う主、ヴァンス様は、只今客人を接待している最中。


俺達は、旅業を転々とする身である故に、各世界の拠点を維持するための費用は勿論だが、

戸籍謄本や身分証明を取得せねばならない。

その世界に属する移民が、自国から他国へ移住する際に、戸籍入手が問題となるケースがあるが、

俺達の場合はそれ以上に困難を極める。

―――【異世界】出身という時点で、既に取得不可能だとは思うが…。



エクレシアの方々は、【異世界なんでも相談事務局】を仲介にして、それらの難題を解決している。

言わずとも…俺達は正規の仲介者を得る事は不可能だ。

しかし、一流大学の入試問題であれ、改正の難しい法律であれ、『別解答』『抜け穴』というものが存在する。

そう、ヴァンス様の場合はそれを利用しているのだ。


通常なら、取得不可能な異世界の経歴、銀行口座、身分証明書等の産物を入手できる、

他の世界の経済界を陰で操る存在。

―――すなわち、『裏仲介人』と呼ばれる者たちである。




ヴァンス様は、その中の一人と会談をしている。

御二人の邪魔にならぬように、俺は台所で茶菓子の準備をし、イオンは外で庭掃除に勤しんでいる。



―――『あの方』がいらしてから早1時間。

この様子だと、会談はもう暫く続きそうだ……。

  



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