裏・御伽草子

□【3】その客人、酔狂
4ページ/4ページ



「イタチ〜、お腹空いたよー」


イオンは、不機嫌そうな顔でドカッと近くのある『モノ』に腰を落ち着ける。


「…まだ掃除が終わっていない」


イタチは、息を漏らして近くに倒れている敵を屋敷の外へと出していく。


「イオン…そこに倒れている者たちをさっさと移動させるぞ」

「はーい」


イオンは返事をすると、立ち上がって、その椅子代わりにしていた『敵』の頭を

鷲掴みしてズルズルと引き摺っていく。



庭には、多数の侵入者が積み木を重ねるように【山】を形成していた。

ほとんどが虫の息状態…

…対照的に二人は全身に傷一つ付いていない。

無数の敵を敢えて殺さなかったのは、ヴァンスからの命令だ。



『生ゴミを増やすな』



主人から言われた、守るべき絶対的命令の重要事項。

二人は、その命令を破る事無く、今日まで守りながら主人の傍で仕えている。

ようやく、最後の一人を放り出して『山』片づけが終了した時、主人と客人が外から出てきた。


「おや、二人ともお疲れ様」

「あ、ヴィンセントさん」


庭に設置されている水道の蛇口で、手を洗っていたイオンの頭を、ヴィンセントは手で優しく撫でる。

ヴァンスは、「ゴミは始末したか?」とイタチに尋ねていた。


「はい、屋敷から大分離れた場所へ置いてきました」

「…ごくろう」


イタチにねぎらいの言葉を言った後、ヴァンスは屋敷の床部分に視線を向ける。


「…さっさと去れ。下衆が」


地を這うような怒声を響かせると、忍んでいた残党が素早く屋敷から逃げ去った。

それを見届けると、ヴァンスは部下2人と向き合って言った。



「昼が大分過ぎた。今日は出前を取るぞ」



それを聞いて、イオンは先ほどの疲れが吹き飛んだのか、満面の笑顔となる。

イタチも、薄らと笑みを浮かべて一礼する。


「じゃあ、僕はピザがいい!」

「俺はかけ蕎麦をお願いします」

「どちらか一つに絞れ…阿呆共」


大いに眉を寄せて溜息を洩らすヴァンス。



「私は、特上握り寿司をぜひ食してみたいよ。

日本食はヘルシーで有名だからね」


「お前はさっさと帰れ、ド阿呆」

「つれないね〜」



いつの間にか、ヴィンセントも会話に加わる始末…。

それから、彼らが昼餉を食べる事が出来るようになったのは午後3時を過ぎてからだった。

ちなみに、出前は【特上握り寿司】となり、代金はヴァンスが、4人前を全額支払う羽目になった。



「私の頭を叩いた弁償代だよ。

これでお相子だと思わないかい?」


「……食えん奴だ」





次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ