裏・御伽草子

□【2】魔法の言葉
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……物心ついた時から、習得していたこの【能力】。

この力の所為で、ロクな経験をした事がないが、今更後悔しても仕方ない。

この身に宿った能力なら…俺が好きなように使っても文句はあるまい。

――――非難するつもりなら、俺を陥れた神々どもを恨むんだな。





【魔法の言葉】





ギラギラと眩しい光を放ちながら、地上を万遍無く照り付ける太陽。

その光がジワジワと地上に降り注ぎ、油をひいたフライパンの様に周囲は蒸気を醸し出している。

うちわを仰ぎながらイオンは、部屋の壁に立て掛けられている温度計を手にとって確認する。

気温は軽く30度を超えていた。それを見るなり、大いに眉を寄せた。


「暑いよ〜、ヴァンスー!」





――――この世界の季節は【盛夏】


【カオス・クオーツ】と見なされた(一方的に他の神々がそう決めつけた)ヴァンスは、

人々が集う公の場に姿を出す事は滅多にない。

別に、導き神やその使者に見つかるのが厄介だという訳ではなく、

わざわざ事を荒立てる程、彼は戦闘狂ではない。


下手に目をつけられても、後々面倒くさい事になるだけ。

余計な行動をしなければ、向こう側も手出しはしない。


以上の事からヴァンスは、自分にとって利益のある又は重大な仕事が起きない場合は、

各世界に作った隠れ家で、ひっそりと生活している。

専ら、ヴァンスは趣味の昼寝か、内職に打ち込んでいる。

内職とは…ネットオークションや書籍作りだ。



訳ありの職業上、異世界を転々と旅しているため、ついでにその世界でしか採れない交易品や薬草、鉱石などを入手している。

別の世界で、それらは高値で売りさばく事が出来るのだ。

直接、業者と交渉する事もあるが、文明が成熟して、ある程度の技術が整っている世界であれば、インターネットを扱った方が楽だ。



また、言論・表現の自由を確保している国であれば、幅広いジャンルの書籍が流通する。

今までの経験と知識を元に、ヴァンスは紀行文やエッセイ本を執筆している。


幸運にも、秩序が保たれた、思想の自由が繁栄する国々の住民は寛容的な思考の者が多く、

それを数ある分野の中のひとつの【書物】としか見ない。

おかげで、好き嫌いの差はあれど、売れ行きもそれなりに好調だ。


さすがにその世界の神々も、実世界の者達の文化にまで介入できないため、ヴァンスの執筆活動を黙認せざる負えない。

それはヴァンスにとって好都合であり、彼らに対するある種の【復讐】を成し遂げている。



本日も、ヴァンスはパソコンのキーボードを無駄のない動きで打ち込み、最新作の小説を制作している最中だ。

夏の猛暑が舞い込もうが、集中している彼には関係ない。

  



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