裏・御伽草子
□【2】魔法の言葉
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例外があるとすれば――――【あいつ】。
『すごい! 心の声が分かるなんて…魔法使いみたい♪』
人間だった頃に、俺の能力を認め、受け入れたのも紛れもなく妻だった。
『ねえ、おとーさん…どうして、あたしがにんぎょうほしいって、しってたの?』
『それはね、お父さんが魔法使いだからよ。
コゼットがキチンといい子にしてたから、ご褒美をくれたんだよ』
あれだけ、前向きに…懸命に、俺を支え…存在を認めたのもあいつだけだった。
妻…マリエルのあの言葉がなければ…
俺はこの【力】を生涯恨み、使いこなせなかったはずだ。
――――己の存在意義も、ずっと否定し続けていたかもしれない。
はぁ、と息を漏らしつつ、昔の事を思い出している最中、トタトタと廊下から足音が鳴り響く。
「お待たせ! はい、麦茶」
コップ一杯の麦茶と御代わり用の容器を、イオンがお盆にのせて運んできた。
コップをヴァンスに渡すと、イオンは先ほどのカップアイスを美味しそうに食べ始める。
それを横目で見ながら、ヴァンスは麦茶を片手に一口啜る。
「あのさ…」
「ん、どうした?」
イオンが、食べるのを中断して言った。
「今度…街に出て、アイス買ってもいいかな?」
不安そうな表情で、恐る恐る尋ねる部下に、ヴァンスは口元に弧を描く。
「好きにしろ、腹を壊さん程度にな」
「…うん!」
主人からの了承が出て、満面の笑みを浮かべるイオン。
もう少しで、もう一人の部下が帰宅し、夕餉の時間となる。
それまでは、ゆっくりと暇つぶししよう…とすっかり宵の時刻と化した夜景を眺める。
遠目から見える彩りよい街のネオン…。
人工的な光が、不思議と胸の中を懐かしい気持ちにさせた。
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