忍の恋

□強い君
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テンテン視点

なんでだろう、ふとここに来たくなった。
まぁ、理由は分かってるんだけどね。
「ねえ、ネジ
さっきね、ネジのお葬式があったんだよ。リーとガイ先生が大泣きしてさ〜、大変だったんだから!」
ネジが修行で使っていた木の、ボロボロになった幹に触れた。
おちゃらけた様子で言ったのは、ネジがいつものように『やれやれ…』と返事を返してくれるんじゃないかと思ったから。
でも、返事はない。
分かってたよ、だってネジはもういないんだからね。

マダラに勝って、無限月詠から解放されたあの日。
あの日から、なんだか凄く気分が悪いの。
戦争は終って、世界が本当の意味で平和になった筈なのに。
胸の奥底に真っ黒なモヤモヤしたものが貯まっている感じがする。
早く吐き出してしまいたい。
でも、中々吐き出せない。
…吐き出した後が怖いから。
このモヤモヤを吐き出したらどうなるのだろう、楽になれるの?それとも、もっと辛くなるの?
ねぇ、教えてよ、ネジ。。。
また一段とモヤモヤが大きくなった。
それでも私の目からは涙が出て来ない。
思い出すのは先程の葬式で涙を流していたリー達の姿。
「…良いなー、泣けて。
私なんか、涙も出て来ないよ…。」
あの日から今日まで、一度も涙は出てこなかった。
『本当に悲しいと涙は出てこない』と聞いた事はあったけど、本当だったんだなぁ、なんて思った。…そんな事、知る期会があるなんて思わなかったけど、……出来れば知りたくは無かったなぁ。


ネジは死んだ。
ナルト達を守って、自分の意志で。
それが結構的に世界を救う事に繋がった。
うん、分かってる。
頭ではちゃんと分かってるんだよ。
でもさ、どんなに頭では分かっていても、心の何処かでまだネジの死を受け入れられないでいるんだ。
ナルト達を守ったんだ。
(なんでネジなの?)
世界を救ったんだ。
(ネジじゃなくても良かったんじゃないの?)
そんな事を考える自分が一番嫌だ。
(「ネジは自分の意志でナルトを守った。それが結果的に忍連合軍の勝利に結びついた。だからね、私達はネジを褒めなきゃ!
私達には悲しがってる暇なんてないの、そんな暇があるならネジにいっぱいいっぱい『ありがとう』って伝えなきゃ!!」)
リーに私が言った事。なのに私が一番わかってない。
「リーにはあんな事言ったくせに、私が一番ダメダメだね…。
ごめんね、ネジ」

何でここに来たくなったのか、理由ならわかってる。
ここならネジに会えると思ったの。
戦争とか、ネジが死んじゃったりとか、実はぜーんぶ私の夢の中で起った事で、ネジはいつもと変わらずこの場所で修行してるんじゃないか、って。
そんな事ある筈無いのに。
そんな事ある筈無いってわかってるのに。
「…馬鹿だね、私。」


突然強い風がふいた。
でも、とっても暖かい…
その風に乗って懐かしい香りが届いた。
甘い、香ばしい、
忘れる筈がない。
私が、大好きな香り。
「…ごま団子……?」

私達が修行で使っていた此処の近くには甘味屋がある。
私はそこのごま団子が大好きで、修行帰りに3人で一緒に食べたごま団子はもっと大好きだった。
よく3人で食べに行ったなぁ。
でも最近はあんまり食べてない、最後に食べたのはいつだっけ?
また今度、3人で食べに行こっ…

…もう、3人じゃないんだ。
ネジはいないんだから。。。
………今までの当たり前が、全て当たり前じゃなくなってくる。
私にとっての当たり前は、リーとガイ先生が馬鹿やって、ネジが突っ込んで、私は笑ってて…
それがもう叶わない。
ネジ…、貴方がいないから。

ねぇ、日向を変えるんじゃなかったの?
ねぇ、次こそはナルトに勝つんじゃなかったの?
ねぇ、リーと一緒に新術考えるんじゃなかったの?
ねえ、、、
…私を幸せにしてくれるんじゃなかったの?

懐かしい香りと共に、頭に、ネジとの思い出が沢山思い浮かぶ。
…だめ、……これ以上思い出しちゃだめ!!
これ以上思い出したら、
…私、、、
   泣いちゃうよぉ………!

そう思った時にはもう、目から涙が溢れていた。
ねぇ、ネジなんで!? ねぇ!
なんで死んじゃったの!?
なんでよ…なんで…!?
日向は最強なんでしょ!?
だったら死なないでよ!!
ネジ…、ネジ…!
「…私を残して、行かないでよ…………!!
ネジ…………………。」

もう涙は止まらなかった。
流しても流しても止まらなかった。
この3日間、本当はずっと泣きたかったんだ。でも、泣けなかった。
その波が今になって押し寄せてくる。
今は、その波に流されてしまおう。
いっぱい泣いて、この悲しみにケリをつけよう。
それはけして、ネジを忘れるという事ではない。
ネジとの思い出も、ネジを失った悲しみも、全部一緒に抱きしめて、ネジのいない世界で私は生きていこう。
だから…、
今だけは…いっぱい泣かせてね、ネジ。

どれだけの時間そうしていたのだろうか。
私はネジの名前を呼びながらずっと泣き続けていた。
おかげ様で、もう目がパンパンに腫れちゃったよ!
でもこれで、ネジにお別れは伝えられたかな?
「…正直ね、まだ悲しいよ。
そんなすぐには慣れないし、また誰もいないのに『ネジ?』って声かける事もいっぱいあると思う。
でもね、私は大丈夫だよ!
悲しみは大きいけど、それ以上にネジとの楽しい思い出の方が多いから!
だから…ネジ、心配しないでね」
ネジに、今の私の気持ちを伝えた。
するとそれに応えるように、小さい風がふいた。
「……ネジ、やっぱり少し寂しいからさ、
私の事、見守っててね……」
最後の一言は自分にしか聞こえない様な小さな声で言った。
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