ローレライの唄
□序唱
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逃げる
逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる
宛てなどない
とにかくただ、ひたすらに前へ
少しでも、遠くへ
――ゼハハハハ!!!伝説の七煌宝珠はどこだ!?さっさと現れてくれりゃあ、俺達も余計な血を流さずにすむんだけどなぁ!!
体が震える
吐息が凍る
恐怖がじわじわと、背後に迫ってくる
怖い怖い怖い怖い怖い
逃げないと
とにかく、逃げないと
――……お逃げクレア
――長老、でもっ
――お前の力があの男の手に渡ってしまえば、それこそこの世の地獄だ。お前は決して、奪われてはならない我らが宝。……だからお逃げ
涙が頬を伝い落ちる
止まらない
たまらなく叫び出したいのに
声すらも、出ない
――お前は、海の愛子。この世の全ての水の精霊が、きっとお前を生かしてくれる。……無力な老いぼれを、どうか憎んでおくれ
――……っ…私嫌だ!!ひとりぼっちになんてなりたくない!!辛い!!なら、ここでみんなと戦って、死んだ方がマシだよ!!
――クレア!!!
――、っ
――逃げるんだよ。お前は、決して死んではならない。お前は大いなる命の源、海の化身なんだ。……お前の命が息づく限り、エディルレイドの輪廻は決して終わらない
――……っ…長老ぉ……
――辛くても、生きるんだよクレア。海は広い。きっと、この海の果てでお前は、大切なものを見つけるだろう。だから、生きるんだよ。クレア
脳裏に過る、悲しい『さよなら』が何度も何度もリフレインする
どうして、私は逃げているんだろう
本来ならば誰よりも、戦う力があるはずなのに
それは、他ならない……私がどうしようもなく臆病であるから
「……っ…」
島の外れで、私は暗い海を見つめる
どこまでも広い海
振り返れば、繁る森の向こうが煌々と明るい
真っ赤な色と、怒号と悲鳴、狂笑がここまで響いてくる
もう、帰る場所などどこにもない
どんなに卑怯でも、どんなに無様でも
私が生き残る事が同族の望みであるのなら
臆病で無力な私に、唯一課せられた使命であるのなら
生きよう
どこまでも
逃げよう
いつまでも
覚悟を決めて、私はすうと息を吸う
そして