ディバゲ

□攻略恋のシュレーディンガー方程式
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最近名無しさんの様子がおかしい。なんだかソワソワしているし、残業せずにさっさと自室に戻っているかと思って部屋に行ったら出掛けて居なくてちょっと寂しい思いをさせられたり…

別に仕事以外の時間何をしてるか報告するよう義務づけてはいないし、名無しさんの勝手ではあるけどいつもと違う名無しさんを見ていると何だか僕まで落ち着かない。

ついさっきもお疲れ様です。お先に失礼します。と言って部屋を去っていった。今までならお茶淹れましょうか?とか整理し始めたりなかなか帰ろうとしなくて僕もそれが日常だと思ってたのに。だから今日こうして名無しさんの後をつけてても例え名無しさんがその事を知ったって構わない。第一、僕をソワソワさせる名無しさんが悪い。



自室に戻った名無しさんが本やら資料やらを抱えて部屋から出てきた。どうやら急いでいるらしい。早歩きしながら鞄に荷物を突っ込んでいる。その拍子に一枚、僕の研究では必要なさそうな方程式の一部が書かれた紙を落として名無しさんは行ってしまった。


てくてくと小さめの歩幅で歩く彼女の2m後ろを僕がゆっくり歩く。一つに結わえられたポニーテールが彼女の歩みに合わせて揺れるのがまるで、これから行く場所が楽しみで仕方無いかのようで揺れる度に僕はモヤモヤが募っていく。


そして、暫く歩いて行き着いたのはなんと僕もよく知る漆黒研クインテセンスだった。



「ヘンペルさーん!!名無しさんです!遂に!!!攻略しましたよ!!!」

そう言って少し興奮気味の名無しさんは研究室に乗り込む。僕は物陰から二人の会話を聞くことにした。

「いらっしゃい。遂に解けたのですか?」
「はいっ!物理なんて研究所入るためのテスト勉強以来だったので思い出すのに苦労しましたが!」

まず、どうしてヘンペルが名無しさんを受け入れてるの。それと遂に解けたって何。僕に内緒で名無しさん何してるの。

「なるほど。それで解とはどのようなものなのですか?」
「これです!」
「なるほど…見たところ確かに解ではありますが…」
「解が出たと言うことは私はこれでシュレさんを攻略できるはずなのです!何と言ったってシュレーディンガー方程式ですよ!!」
「何と言ったって。って名付けたのは名無しさんさんじゃないですか。これで本当に解けるんですか?」
「理論上は…?」

僕?攻略って何のことだろう?

「」
「あれ?ヘンペルさん?」
「具体的にはどう攻略すれば良いとお考えなのですか?」
「これは、非時間依存のシュレーディンガー方程式なので、まず時間tを満たすΨを求めることで時間依存する式に書き換えられます。」
「つまり、Ψが肝心な訳ですね」
「そうです。そして、そのΨが人間、魔物や妖精と言った高次生物の場合、そのまま時間という存在によって時間条件が満たされるのです!!」
「ほぅ、文字通り時間が解決すると…?」
「恋や悩みは時間が解決する。と言うことがここに証明されたのです!!」

ドヤ顔の名無しさんと神妙な面持ちのヘンペル。これはそのシュレーディンガー方程式とやらの解と結論がずれている事を指摘すべきなのだろうか。

「それでは名無しさんさん、カタリナはどうやって攻略するのですか?」
「偏微分できっと解けます!」

名無しさん、解けるわけないでしょ。
はぁ、なんで僕の助手やってるんだろう。

「科学にきっとはありません!」
「すっ、推測の域を出ない内はそんな無責任なこと言えません!」
「なら、そこの水才に意見を伺ってみてはいかがです?」
「えっ?」
えっ?
「ほら、隠れてないで出てきてはどうです。」
「えっ?シュレさんいるの?!」

隠れていても仕方無いし、手のかかる助手の意味不明な結論を正す為にも物陰から姿を見せる。

(まさかヘンペルに気づかれてたなんて思わなかった。)
「最初から気づいていましたよ。」
「なっ!わっ私だけ知らなかったんですか?!」
「おや。気づいているものと思っていましたが。」

名無しさんは突然の事に顔を赤らめ、あたふたし出す。ヘンペルはそんな様子を満足気に眺めている。僕はそれが気に入らない。ヘンペルは名無しさんの何なの。と一人悶々としているとヘンペルに質問された。

「それで、水才はどうお考えで?」
(何のこと?)
「シュレーディンガー方程式についてですよ。」
「いっ、いや大丈夫です!」
「そう言わず説明して差し上げればいいじゃないですか。」

ああ。さっきの方程式か。あれは…
(名無しさん、理論が破綻してた。教えてあげるから帰るよ)
「ええっ??いぃや、そのまっ間に合って!」
(帰るよ)
と言うだけ言って名無しさんの細い手首を掴む。
「ひぃっ!」
名無しさんの否定を含んだ声色に今までモヤモヤしていた気持ちが溢れてきて思わず
(何でそんな声出すの?そんなにヘンペルがいいの?僕じゃ嫌なの?)
と聞いてしまう。
名無しさんは俯いてわなわなし出したかと思うと
「どうしてそうなるんですか!ヘンペルさんなんて眼中にないですもん!嫌じゃないどころかシュレさんのことばっか考えちゃって仕方ないから方程式なら答えがわかると思って解いてたのに!どれだけ私の気持ちを引っ掻き回せば気が済むんですか!!私が好きなのはシュレさんだけですもん!」

思いもよらない名無しさんからの突然の告白に動揺が隠せない。

(名無しさんバカなの?)
「そのままお返しします !」
(僕だって名無しさんで頭いっぱい)
「ふざけないで下さい」
(方程式なんて解かなくても答え出てる)

(僕だけ見てて)

「シュレさん…」


折角甘い雰囲気だったのに
「そう言うのは外でやってもらえますか。ここ、私の研究室ですよ。」
ヘンペルのストップが入った。

「あっ、ごめんなさい。」
(名無しさん帰ろ)
「はい!」

満面の笑みで返事をした可愛い助手を連れて僕はクインテセンスを後にした。


水才を攻略するために立式したこのシュレーディンガー方程式が後の物理学界に多大な影響を与える事を名無しさんはまだ知らない。
 

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