暮れなずむ空であなたと
□#0
1ページ/2ページ
遠い遠い昔の記憶。
当時の私は、ふわふわの茶髪をツインテールにして、これまたふわふわのスカートをはいて、いつもテディベアを持っているような、絵に描いたような女の子だった。
『れーいくんっ!あそぼ!』
私はいつものように、近所に住む零くんを呼びに公園に来ていた。
ちょうど、しゃがみ込んでいた彼の背中に話しかけたのだが、彼から返事はなかった。
『零くん…?』
心配になって彼を覗き込んで、驚いた。普段、泣かない零くんが顔をぐしゃぐしゃにして泣いていたのだ。
『零くん!どうしたの?どこか痛いの?!それなら、先生のところに…』
「ダメ……いないんだ…いないんだよ…エレーナ先生……」
『え……?』
幼い私は瞬時に理解した。
私たちの町医者…エレーナ先生のことを零くんは大好きなわけなのだが……そのエレーナ先生が、いないのだろう。
『…お出かけ?』
「違う…いなくなっちゃったんだよ」
『家にもいないの?』
「うん……遠くに行っちゃうって……行ってたんだ…」
そう言うと、零くんはもっと声を出して泣きはじめた。
幼い私には、何もできなかった。
零くんが、エレーナ先生に淡い恋心を抱いていたのは知っている。
私だって、優しいエレーナ先生が大好きだ。
『…お引っ越し?』
「わからない…」
『もう会えないの?』
「会えないって…」
涙わ止めない零くんを見て、私は必死に何かを考えた。
どうしたら、零の涙を止めることができるのか。
どうしたら、彼を笑顔にできるのか。
私は
エレーナ先生じゃないけど
『零くん…泣かないで……』
「うぅ…先生…」
そっと、そして、強く。
彼の手を握る。
『…私はずっと、零くんの隣にいる!』
すると、ようやく彼は私の方を見てくれた。水色の大きな瞳が濡れていた。
「ずっと…いてくれるの?」
『うん!ずっと!絶対!』
「いなくならない?」
『ずっといる!エレーナ先生が帰ってくるまで、私が代わりに零くんを守るから!』
お願いよ。どうか泣き止んで。
そんな想いと一緒に、私は強く強く彼の手を握る。
これが
私と彼の最初の約束。
私と彼の物語。