薄桜鬼
□捕らわれるもの
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月が低く登り始めた頃。
仕事を切りよく終えた俺は目指す部屋に向かい足早に長い廊下を歩く。
実際は、今にも顔が綻び駆け出したいところだが鬼で通っている副長がそんな様では一々突っかかってくる隊士に対しての対応が面倒になる。
今夜こそゆっくり時間をとりたい…
と思っていた矢先。
「はぁ……」
通りかかったのは近藤さんの部屋。
障子の奥から深いため息。
………。
またあの人は、どうも細かい事にいちいち悩み過ぎていけねぇ。
先を急ぎたいが、あの人は放っておけねぇ。仕方ない。
「どうした、近藤さん。
また隊内の揉め事か?」
声を掛けた俺に、文を書いていた近藤さんが筆を置く。
「あぁ、歳。いや、悩んでも仕方な いんだが……」
じゃあ悩まないでくれと思うが、近藤さんが書いている文にふと視線を落とすと、これはどうしたものかと思う。
"隊内に衆道が流行り困っています"
多摩の故郷に宛てたものらしい。
どうやらそれらしい隊士達をよく目撃しているらしい。世間体を気にして法度に加えるべきか悩んでいる。
それは困るっ!
……と叫びそうになるが、冷静に意見を述べる。
「まぁ、少し様子を見よう。今の所、隊務に影響はないしな。奴らだって区別してるさ。それに、この手の事に関しては多少は黙認するしかねぇだろう。」
毎日生死の境をさ迷って過ごすのだ。誰しも心の奥底で抱える恐怖や不安を少しでも融かす対象が欲しい筈だ。それが男であれ女であれ……
それで隊務が滞りなく回ればそれでいい。
……近藤さんだって京に来て女を囲っているだろう。
「そうだな。歳の言う通りかもしれないな。」
とりあえず、様子を見る事で納得して貰えた。
因みに俺は"京の女に言い寄られて困っているよ"
という様な文を姉夫婦に送ったと言ったら、軽く頭を小突かれた。
そんな近藤さんに笑って、
……バラガキ時代の俺とは違うさ。今、俺に必要なもんは別にある。
と思い、部屋を後にした。