立海
□キングと神の子
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ずっしりと重い身体をなんとか転がしてスマホを手に取る。
とてもじゃないけどベッドから抜け出す気にはまだならなかった。
今が朝8時と確認したら、ポイとスマホを手放して火照った身体を重力にまかせた。
氷帝と試合したのが昨日。
跡部と決着がついたのが日が傾き始めたころだったから、まだ余韻が十分に残っている。
(跡部…すごかったな)
試合の後、こんなに疲労が残ったのははじめてだった。
なんだか眼球の奥の方も重くて、目を開けているのも億劫だ。
(跡部のいろいろを見極めようとしていたからかな…)
きっと他のメンバーも今日いちにちは骨休めしていることだろう。
どの試合も有意義でいい思い出になったから、誘ってくれた跡部には感謝しないといけない。
(楽しかったな、久しぶりに…)
でも…引退の二文字が幸村の気持ちを寂しくさせる。
せっかく寄り添うものが見つかったのに、また孤独になるようなそんな感じ。
(跡部、君はどうだった?)
今日のところは塾も受験勉強ももういいやと投げ出して、
(俺のテニスを見捨てないで最後まで本気でついてきてくれた)
跡部景吾の残像を瞼の奥で楽しんでいよう。
それなのに夢の続きはあっけなく幕切れとなり、幸村はちょっと苛立った。
階下で呼ぶ母の声に応えなければならない。
何度呼ばれても身体は動かしたくないから「なにー」とだけ声を出した。
たいした用事ではなさそうだなと独り合点して掛け布団にくるまった。
(…そういえば玄関に置きっぱなしのプランター、片付けるように言われてたな)
そのうち階下が静かになったから母は諦めたのだろう。
妹とふたりで女同士共感を求めて愚痴をこぼしている様子が目に浮かぶ。
今度は妹の鈴みたいな声が呼びかけてきたから、
「はーいわかったよ」
その場しのぎで返事した。