ギャグ小説の段

□告白大作戦
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 翌日。
 「よしっ、行くぞ潮江文次郎。漢になれっ!」
 両手で自身の頬をパチンと叩き、潮江は気合を入れる。
 「すみませーん」
 団子屋の暖簾を手で押すと、
 「いらっしゃいませ〜」
 娘が奥から顔を出した。
 「だ、だだ、団子屋を一つ」
 潮江はまたなぜかピースサインをするが、娘はくすりと笑い、
 「はい、お一つですね」
 と頷いた。
 外に用意されている長椅子へ腰掛け、潮江は伝えるべき言葉を反復する。
 「好きです、私とお付き合いして下さい。好きです、私とお付き合いしてください。好きです、私と……」
 
 ―男なら直球で勝負だ―
 ―潮江くんらしい―

 義丸の言葉が脳裏をよぎる。
 ――そうだ、俺らしく!――

 ―そのギンギンて口癖は…―
 口癖は、
 ――なんだっけ?――
 「……?」
 いくら考えても思い出せない。
 「まぁいっか。俺は俺らしくやるのみ!」

 「お待たせしました〜」
 娘は団子と茶を運んでくるとそれを潮江の横へと置き、
 「ごゆっくりどうぞ」
 微笑み、店の中へと戻ろうとする。
 潮江はその娘の背中を呼び止めた。
 「あのっ!!」
 「はい?」
 「俺…じゃなかった、わ、私は……」
 「?」
 「私は、あ、貴女を、は、初めて見たときからす……」
 「カラス…?」
 「…き……」
 「木?」
 
 ――いけ、潮江文次郎!漢を見せろっ!――

 潮江は娘を見つめ、想いの丈を直球でぶつけた。
 「貴女を初めて見たときから好きになってしまい、貴女を想うと…ギンギンなんですっ!!」




 ―パチンパチン
 会計委員会に潮江の見事なまでのそろばんを弾く音が響く。
 「潮江会計委員長、戻ったみたいですね?」
 「うん、食満先輩に相談した甲斐があったな。さすが食満先輩」
 「ところで、なにが原因だったんですかね?」
 「さぁ?でもほら見てみろよ。潮江会計委員長の左頬に見事についた手形」
 「あぁ、あれ僕も気になってました」
 「きっと食満先輩が拳で解決してくれたんだよ」
 「なるほど!犬猿の仲と言われている二人ですが、これぞ男同士の友情ですね!格好いいなぁ」
 「こらっ、お前たち!私語はつつしめ!」
 潮江が三木ヱ門と団蔵を睨んだ。
 「「すみません!!」」
 慌てて手元に目を戻す二人。
 再び潮江のそろばんの音が鳴り出すと、団蔵はちらりと潮江を見上げた。
 ――でも、あの手形平手打ちなんだけどなぁ…?……もしかして食満先輩て、おネェなのかな…?――




 
食満に疑惑が出たのはまた別のお話。


 
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