その他CP・物語の段

□理由はいらない
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 薬を塗り丁寧に包帯を巻き終え伊作は、うん、と一つ頷いた。
 「また明日塗りなおそうね」
 「あぁ。ありがとうな」
 それでもまだ手を離さない伊作に、食満は首を傾げた。
 「伊作…?」
 「…留三郎。僕の所為でいつもいつもこんな…」
 「だから、俺はそんなのどうってことないっての」
 「……。どうして留三郎はそこまでして僕なんか…」
 俯き今にも泣き出しそうな顔に、食満はその頭を右手で軽く、ぽん、と叩いた。
 「?」
 「言っただろう?俺は伊作だから好きなんだ」
 「……留三郎」
 伊作の瞳がかすかに揺れる。
 「…伊作、この前の返事だけどさ……」
 「うん…」
 「焦んなくていいから」
 「…ぇ?」
 ニッと笑う食満に伊作は拍子抜けしたようは声を出した。
 
 衝立はまるで俺を拒んでいるかのようだ。
 
 「焦らなくていいよ。いつまでも待つからさ」

 その衝立がもっと高く、もっと長くなって、飛んでも跳ねても届かないようになってしまうくらいなら…。

 「…おやすみ、伊作」
 食満は伊作の手のひらから自身の左手を引き抜こうとした。が、
 「ま、待って!」
 慌てた伊作は食満の手をぎゅうと握った。
 「いってぇっ!〜〜っ!!」
 「あぁっ!すまない、留三郎!つい怪我のことを忘れて」
 「だ、大丈夫だ…」
 「…。留三郎、あのね…」
 「?」
 「僕、あれから考えたんだ。僕は留三郎とどうなりたいんだろう、って…」
 「……答えは?」
 伊作はゆるゆると首を横に振った。
 「そっか…。そうだよな、友達だと思ってた奴から急にそんなこと言われても困るよな」
 食満は、ははっ、と笑った。決して面白いからではなく、乾いた、その場を繕おうとする笑い。
 しかし、
 「違うよ…」
 伊作はぽつりと呟いた。
 「っ…?」
 「分からないんだ。僕は留三郎が好きだよ?でも、それが他の仲間を思う好きと同じなのか、違うのか…」
 「……」
 今度は食満が伊作の手をぎゅっと握る番だ。
 「っ!?留三郎?」
 「これは、嫌か?」
 「これ…?」
 食満は更に手に力を入れた。
 「これ」
 「…嫌、じゃない…」
 「じゃあ、これは?」
 食満は左手で伊作の右頬に触れた。
 ざらりとした包帯の感触が伊作の頬に残る。
 それは人肌から与えられる温もりとは違い無機質な感触。それでも伊作の心臓はこれ以上ないほどに強く打った。
 「嫌……」
 「嫌?」
 「…じゃない」


 
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