その他CP・物語の段
□理由はいらない
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食満は忍術学園に戻ると、いち早く体の汚れを落としたく風呂へと直行した。
未だじんじんと痛む左の手のひらを見てみると、それは擦れて皮が剥がれご丁寧に血豆までもができている。
「こんなの怪我のうちにも入らねぇ」
気にせず掛け湯をすると、
「…ぃつっ!!」
湯が傷にしみた。
しかし傷の一つや二つでギャーギャー言っていては忍者になど到底なれない。構わず頭をごしごし洗う。
「〜〜っ!!」
やっぱり痛かった…。
就寝時間。食満と伊作は各々自身の布団を敷くと、食満はその布団の間に衝立を立て、伊作は押し入れからいつものように薬品の入った箱を取り出した。
「今日くらいゆっくり休めよ?一日山道走り回って、なんかいろいろあったしさ」
うん、と言いながらも伊作はその箱から小さな箱と包帯を取り出すのを止めない。
「……」
まぁいいか、と食満は自身の布団へ入ろうとした時、
「留三郎」
伊作に呼び止められた。
「ん?」
布団を持ち上げる手を止めそちらを向くと、伊作は先ほど食満が立てた衝立を元の位置に戻していた。
「伊作?」
小箱と包帯を手に持ち、立て膝で食満の元へと近寄り膝と膝のつく距離でご丁寧に正座をする。
――なんだ…これ…?――
まるで初夜を迎える夫婦。
――んなわけあるか、こんな場面で俺は何を考えてるんだ!?――
しかし行灯のぼんやりとした光の中で己を見上げる想い人にドキドキしない人間などいないだろう。
「留三郎…」
「な、なんだ、伊作?」
「助けてくれてありがとう…」
「…?」
きっと言いたいのは今日の吊橋のことだろうとは見当がつく。
「そんなの今更だろ?」
「うん、だけど…」
伊作は両手で食満の左手を包み込むように持ち上げた。
「!?」
しかし決して傷口には触れないようにそっと、それは母に包まれた赤子のように。
「僕は無事でも留三郎に怪我をさせてしまった」
「…っ!!」
すまない、と言いながら伊作は食満の手のひらを開かせその傷口を見つめる。
「気づいてたのか…」
「うん。橋を渡り切って、立ち上がった時に留三郎の手が着いていた地面が少し血で染まってたから…」
「そうか…」
「すまない…」
眉根を寄せ辛そうな顔をする。
「べ、別にこれくらい全然大丈夫だから」
言って手を引こうとしたが、それを伊作は許さなかった。
むしろ食満の左手の甲を掴む手のひらに力が入る。
「伊作…?」
「ちゃんと薬塗らなくちゃ」
「う、うん…」
小箱を開くと小さな壺が入っており、伊作はそこに人差し指を突っ込みとろりとした液体をまとわりつかせた。
「少し沁みるよ?」
「お、おう…」
伊作は左手で食満の手のひらを下から支え、薬を食満の傷口へと塗っていく。
「…っ」
「しみるよね、大丈夫?」
「大丈夫だ…」