その他CP・物語の段
□理由はいらない
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しかし…、
「こ、これ…?」
吊橋は今にも崩れ落ちそうな柱と、重さに引きちぎれるのではと心配になる綱で支えられ、足場の板は長年の雨風でボロボロだ。
不気味にもゆらゆらと揺れ、強い揺れの度にどこかからパラパラと足場の木屑が渓谷へとこぼれ落ちる。
「大丈夫かなぁ?」
「行くしかないだろ…。だ、大丈夫だ。だって長次も小平太も、その前を走る文次郎も仙蔵もここを通ったんだ…」
「そうだよね。それに今日はもう不運は来ないような気がするし…!」
「行くぞ、伊作…!」
「う、うん!」
ギシギシと嫌な音と、人が通ると余計に大きく左右に揺れる吊橋に多少ながらも恐怖心を持たないわけがない。
「大丈夫、大丈夫だ…」
食満は足元の板が抜けないように慎重に進み、その後ろを伊作も一歩一歩確かめながら渡る。
しかし、右足を軸に左足を前に置こうとした時、
―ミシミシ…
嫌な音は更に恐怖の音へと代わり、
―バキッ!
「うわぁっ!?」
伊作の右足を乗せた板が渓谷へと吸い込まれた。
「伊作っ!」
バランスを崩し、板と共に伊作の身体は足元にできた穴から下へ吸い込まれた。
間一髪食満は伊作の右手首を掴み落下は免れたものの、不安定な吊橋の上、上手く引っ張り上げる力が出せない。
――普段だったら人一人持ち上げるくらい…――
左手で吊橋の綱を掴み、両足を踏ん張ってみるが、
―ミシミシ…
食満の足場もいつ壊れてもおかしくなさそうなほどに悲鳴をあげている。
「しっかり掴まってろー!」
「ごめん、留三郎〜」
「いいから、喋るな〜っ!くぬぅっ!」
――落ちたら一環の終わりだ…!――
「僕が不運なばかりに…」
「喋るなってー!!こんな不運なんて今まで数え切れないほど乗り越えてきたじゃないか!別に俺はお前が不運だからとか、不運じゃないとか関係ないんだ!俺は、伊作が伊作だから…っ!」
食満は全身の筋肉を奮い立たせる。
――絶対に離すもんか…っ!――
ギリギリと歯を食いしばり、滑る橋の綱を手のひらに擦り付け、痛いくらいに伊作の腕に食い込む指。
「留三郎…っ!?」
――そう、俺は伊作だから…――
―好きだ…―
――どんな困難も一緒に乗り越えたいって思ったんだ――
「ぐぬぁあっ!!」
食満はさらに力を込めると、
「…っ!!」
伊作の身体は少しづつ上へと持ち上がり……
「はぁ…はぁ…、なんとか…」
「渡り切ったね…」
橋の向こう側まで渡り終えると、二人はその場へへなへなと座り込んだ。
「ありがとう、留三郎」
伊作はにこりと微笑んだ。
「あ、当たり前だろ…っ!」
食満は両手を尻の後ろにつき座っていたが、伊作のその顔にドキリと心臓が跳ね、その拍子で体重のかかった左の手のひらがピリリと痛んだ。
「…っ!!」
「…留三郎?」
「…な、なんでもない、さ、早く行かないとビリになっちまう」
「うん、そうだね」
二人は立ち上がりゴールへ向かって走り出した。