その他CP・物語の段
□理由はいらない
1ページ/8ページ
部屋を二つに区切る衝立は、なんだか二人の距離を確立させるようだ。
食満は衝立の向こうから漏れ入る灯りをぼんやりと眺めた。
――こんな時間なのにまだやるのか…――
時刻は丑三つ時。夜虫の鳴き声しか聴こえないこんな時間に、食満の寝室にはゴリゴリ…と石臼を挽く音が響く。
しかしそれは食満に気を使い、ゆっくりとそして最小限の力で動かされているのが分かる。
――別にいいのに…――
食満は寝返りをうち、衝立に背を向けた。もうこの音にも慣れた。同室になった当初は気になって仕方がなかったが、今ではこの音が子守唄のようにさえ思える。
「好きだ」
想いをぶつけたのは一ヶ月前。
珍しく薬の調合をせずに床につこうとする伊作に食満は突然に伝えた。
どうして唐突にそんなことを言ったのか自分でも分からなかった。分からなかったけど、何かに焦らされる衝動にかられたのは確かだった。
「?」
行灯を消そうと手を伸ばしていた伊作は、はじめはきょとんとしていたが、あぁ!、と何か納得をしたのか声を発するといつものようににこりと微笑み、
「僕もだよ」
悪びれもせず返事をした。
その顔があまりにも警戒心がないから食満は少しだけイラつき、
「いや、そうゆう意味じゃなくて…」
「?」
「俺は伊作が好きだ。恋をしているとゆう意味で」
少しだけ強くなる口調に我ながら呆れた。
「恋…?」
尚も、分からない、と言った顔で首を傾げる伊作。
「そう、伊作に俺の恋人になってほしいんだ」
「恋人…?」
「そう」
食満は力強く頷いた。
この時にはもう分かっていた。自分を焦らす衝動の正体が。
――怖かったんだ――
このまま気持ちを隠して、同室で無防備に眠る伊作の姿を想像すると、自分が抑えられなくなってしまうのではないかと。
ならばいっそのことこの想いを伝えて、警戒して欲しかった。
もちろんそこで、「僕も好きだよ」と恋人での意味で言ってもらえたならば善し。
しかし違った。
伊作の「僕もだよ」は明らかに友達としての意味で、まるで食満を“男”として見ていなくて…。
――当たり前だ。男が友達を“男”としてみることなどないのだから――
しかしそれではこの焦りは募る一方だ。
――分からせたい。分かってもらいたい――