その他CP・物語の段

□Absolute Zero
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 部屋の前に戻ると伝蔵のいびきが障子越しに聞こえる。
 縁側に座り体の熱を覚ました。見上げる月はまん丸でどこかぽっかりと空いた土井の胸の一部の様だ。
 ――昨日は夢を見たらしい――
 それは覚えていないが覚えている。
 最近は見ることがなくなった夢。
 しかし過去には何十回も何百回も見てきた夢。
 夢なのか、記憶なのかすでに分からないが、それは土井が何かを忘れたころに必ず現れる。
 ――見たくはないが…――

 見たい。
 会いたい。

 立ち上がりそっと部屋に入ると、伝蔵が敷いてくれたのであろう土井の分の布団へゆっくりと潜り込み、静かに目を閉じた。
 ――今日は見ませんように……――




 地響きのような怒声と、泣き叫ぶような声。
 「逃げなさいっ!」
 必死の形相の女。
 「母上っ!」
 背中を押されつんのめる。
 膝が笑い上手く立ち上がれない自分を必死に立たせようとする女の背後に刀を持った男が見えた。
 「母上ー!!」
 「この子だけは、この子だけは!」





 ―ガバッ
 「はぁはぁ…っ」
 土井は布団から弾かれたように跳び起きた。
 ぶるり、と身震いをする。決してそんな季節ではないのに汗をびっしょりとかいていた。
 ――思い出した…――
 ぎゅっ、と掛け布団を握る。
 ――私は昨日も同じ夢を見た…――
 下を向くと顎から布団へ汗が滴った。
 ――いや、違う。昨日だけではなくて…――
 そこでハッとした。同室の伝蔵にまた気づかれたのではないか?
 しかし、朝日が差し込む部屋の中には土井の姿しかなく、もう一組の布団は綺麗に畳まれて部屋の隅にかたされていた。


 
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