その他CP・物語の段

□Absolute Zero
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 自室へと戻り障子を開けると、そこには利吉が座っていた。
 「…あ、土井先生」
 「やぁ利吉くん、来ていたんだね」
 利吉は、部屋に入って来たのが目的の人物ではなかったのか少し残念そうな顔をした。
 「山田先生なら先程廊下ですれ違ったけど?」
 「はぁ…また逃げられましたか」
 ひとつため息をつく。
 「はは、君たち親子は本当に面白いね」
 「面白くなどありませんよ。まったく、父上には困ったものです」
 「で?今度は奥さんからどんな贈り物が?」
 「剃刀と頬紅です」
 利吉は自身の横に置いてある風呂敷を軽く叩いた。
 「ふふ。本当に面白い」
 「母上も同じくらい困ったものですが…」
 「夫婦喧嘩は犬も食わないよ?」
 「本人に言ってやってください」
 「家族も所帯も持たない私が言ったところで、羨ましがられていると取られて終わりだよ」
 「はぁ…」
 再びのため息に、この息子の健気さが伺える。
 「利吉くん、この後も仕事かい?」
 「はい」
 「そうか、それは残念だ」
 「?」
 「町に出る用事があるから、よければ一緒に夕飯でもと思ったんだけれどね」
 「すみません」
 「なに、気にすることじゃないよ。急に誘った私が悪かったんだから」
 「今度はご一緒に」
 「うん、是非行こうね」
 「はい」
 では私はこれで、と利吉が立ち上がる。
 「気をつけて」
 「ありがとうございます」
 失礼します、と一礼をして利吉は部屋を出ていった。
 「さて、私も出かける準備をするかな…」
 学園長の命により里芋行者へ手紙を届けに行く。
 土井は忍び装束を脱ぎ、袴を履いた。


 
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