ギャグ小説の段
□雪ん子〜side by 土井〜
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これで晴れて利吉と二人きりだ。
「ささ、早く入って。風が冷たいだろう」
土井は利吉の背中を半ば強引に押し、部屋の障子を隙間なく閉めた。
「今火鉢を用意するからね」
火鉢を部屋の真ん中へ運び、その横へ利吉用の座布団を敷いた。
ありがとうございます、と利吉はぺこりと頭を下げる。
「何言ってるんだい。せっかくこんな雪の日に私…、いやいや、山田先生に会いに来たのに、会えずに帰るなんてことはさせないよ。さぁ、座って」
土井に上から両肩を軽く押され、それに従うように利吉は座布団へ腰を下ろした。
火鉢に炭を入れると少しづつではあるが、その上に手をかざすと暖かい空気が登っていくのを感じられた。
利吉は両掌を火鉢へとかざすと、
「暖かい」
うっとりと炭を眺める利吉の両手を土井は包み込むように握りしめた。
利吉は決して驚きはせず、ゆっくりと瞳を上げ土井を捉える。
「土井先生…」
「利吉くん…こんなに手が冷たいじゃないか」
「でも土井先生にお会いできて、私の心は暖かいどころか熱いくらいです」
「体もこんなに冷えきってしまっている」
土井は利吉の目の前へ立て膝を付くと、利吉の二の腕に触れた。
「土井先生…」
「利吉くん…」
ゆっくりと顔と顔が近づく。
「…どい、せんせ…」
「利吉くん。温まること、しようか?」
利吉の耳へささやきかけ、ゆっくりと利吉を押し倒す。
「あっ…土井せんせ…」
・
・
「…せんせ…土井先生?」
はっ、と我に返ると利吉が首を傾げて土井の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?深く考えごとをされていらしたようですが?」
「あ、あぁ…、うん、大丈夫だよ。あはははは…」
――いけない、いけない。ついつい二人きりの場面に妄想が先走ってしまった――
「それにしても、こんなに雪が積もるなんてね」
「この辺りでは珍しいですよね」
「子どもたちがはしゃぐ気持ちも分かるよ」
「心なしか土井先生も嬉しそうなお顔ですもんね」
「え?そうかい?」
――それはね、目の前に君がいるからだよ――
「一時間目はみんな遊んでいいことになったそうですね」
「うん。学園長先生の思いつきでね。おかげで授業がすすまないよ」
土井は大袈裟に肩をすぼめた。
――おかげでこうして君と共にすごせるのだから、たまにはあのじいさんも良い思いつきをしてくれたんだけとね――
「あはは。また補習授業が増えちゃうかもしれませんね」
「ホントだよ」
そこへ、土井せんせー!!、と庄左ヱ門が部屋へかけこんできた。
「どうしたんだ庄左ヱ門!?」
驚く土井の手を引き、外へ連れ出そうとする。
「そんなに慌てて何があったんだ?」
「雪合戦をしてたら、四年生の田村三木ヱ門先輩に雪球が当たっちゃって、田村先輩が伸びちゃったんです!」
「何だって!?」
「今、六年生が医務室に運んでいます」
「分かった!利吉くん、私は行ってくるよ」
「私も行きましょう」
利吉が立ち上がりかけると土井は片手でそれを制した。
「いいや、大丈夫だ。もしかしたらその間に山田先生がお帰りになるかもしれないし」
「分かりました。三木ヱ門くん、大事に至らないといいですね」
「うん」
先生!、と庄左ヱ門に呼ばれ、土井は、でやっ!、と部屋を飛び出す。
「…あれ?さっきの雪合戦のメンバーに三木ヱ門くんいたかな?」
残された利吉は首をひねった。