ギャグ小説の段
□雪ん子〜side by 土井〜
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――まさかこんなに雪が積もるなんて――
土井は寝室の障子を開けて目を見開いた。
昨夜最後の見回りをした際に雨からみぞれに変わってきていたのは知っていたが、一晩でここまで積もるとは思わなかった。
――山田先生、帰ってこれるかな?三時間目の授業は実技だから、もし間に合わなければ私が代わりにやらなくては――
出張に出ている伝蔵は、今日の朝に帰って来る予定だがこの雪では分からない。土井は念のためにと今日の実技の授業の内容を確かめた。
一時間目の授業がはじまる前、教職員は全員学園長に呼ばれて臨時の職員会議が行なわれた。
「えー、おほん。見ての通り今朝は雪が降っておる。気の早い忍たまは起きてからすでに校庭で雪で遊んでおるが、それは全生徒同じ気持ちであろう。
そこでじゃ、一時間目の授業は、全員元気に遊ぶこと!」
えぇー!、と声をあげたのは土井のみだった。
「授業がまた進みません〜」
このところ実践やら学園長思いつきの運動会やらで全然授業進まない。ただでさえ勉強が苦手な子たちが揃うクラスなのに…。
「一年は組は、この一時間が潰れても潰れなくても勉強の出来に差はないと思いますがねぇ」
てかてかお肌の安藤が土井に聞こえるように言った。
「なんですってぇ…?」
「一年い組の生徒は雪なんか見向きもせずに自習をしていることでしょう。これが頭の良い子たちとそうでない子たちの差ですね」
「ぐぬぬ…。でも私は、子どもは子どもらしく遊ぶのも大切だと思います!」
「それだと勉強が進まないのでしょう?」
「ぐぬぬ……」
苦虫を噛み潰したような顔で土井は一年は組の教室へと戻り、全員に学園長からの言伝を伝えると、
「「やったぁ!!」」
は組の生徒たちは大喜びだ。
しかしこれで良いのだと思う。
――これが本来の子どもの姿…「「わぁ!!!」」
突然土井の背中から、は組以上の歓声が響いた。
思わず後ろを振り向いたが後ろには黒板しかない。まさか黒板が叫ぶはずなどないし…
すると、ドドドドド、と廊下を走る地響きが近づいてくる。
「なんだなんだぁ?」
土井は慌てて廊下へ顔を出すと、待ちなさ〜い!と埃を巻き上げて走っていく忍たまの塊を追いかける安藤に出くわした。
「どうされました?」
「いや…それが…」
安藤はしどろもどろだ。
「あぁ!もうい組は外で遊んでるよ!」
窓から外を覗いていた喜三太が叫んだ。
「えー!?」
「いいなぁ!」
「僕たちも早く行こうよ!」
は組もみんな立ち上がる。
「土井先生、僕たちも行ってもよろしいですか?」
庄左ヱ門が土井に許可を取りに来た。
「ん?あ、あぁ。もちろんだ」
わーい!と教室から出て行く生徒たちの背中に、一時間目の授業の時間だけだからなー!、と土井は念を押した。
残されたのは土井と安藤。
ふふ、と土井は笑いをこらえられない。
「やっぱり、い組と言えども子どもは子どもですね」
しかし安藤も負けてはいない。
「これは実践です。忍者たるもの、大雨でも雷でも動じてはいけないのです。雪とは貴重な体験。い組は実践を兼ねて外へ出ているのです」
ふんっ、と鼻をならし安藤は教員寮へと歩いていってしまった。
「なーにが、実践ですか」
土井は安藤の背中に、いー、とする。
ちらりと安藤がこちらを振り返った気がしたが、慌てて背中を向け逃げるように自身の部屋へと向かった。