嫌ってくれても別にかまわない

□嫌ってくれても別にかまわない
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とある料亭にて・・・。

(いくら親父さんが持ってきた話だとしても、
どこの馬の骨かもわかれねえ、女と一緒になるなんざ、ごめんだ)

(親父さんには悪いが、今回の話は無しだな・・・)

1月ほど前に、親父さんから話があると呼びだされた時に、いきなり伝えられた話。
それは、縁談だった。
親父さんと、古くから付き合いのある友人の娘らしいが・・・。

“家族”を大切とする親父の思いはわかるが、俺には必要ねえ。
ましてや女なんざ、めんどくせぇだけだ。

碧棺 左馬刻は、相手との顔合わせ前に席を外して、たばこをくわえながら考えていた。


「っふー。っと、そろそろ時間か?仕方ねぇ戻るか・・・」

「う、うえぇーーん!」


一本吸い終わり、部屋に戻ろうと歩き出した時、子供が泣いているのを発見した。


(餓鬼がなに泣いてやがんだ・・・ったく)

「僕、どうしたの?」

「うっうぇーん!わからないよお!」

「ん?お姉さんが助けてあげるから、話聞いてもいい?」


子供の前を通らないと部屋に戻れない左馬刻は、無視して通るのも気分が悪いため
どうしようかと悩んだ時、子供に話しかける一人の女が現れた。

女は子供と目線を合わせるように、しゃがみこみ、スカートの裾が地面に触れるのもお構い無しだ。
子供を不安にさせないように、気を使いながら話しかけているのがわかる。

子供は、“助ける”という言葉を聞いて、少し安心したのか、女に話そうとしているが、
泣いているせいで、なかなか言葉が出てこないようだった。
しかし、女は子供が伝えようとしていることが分かっているようで、優しく頭を撫でながら、
言葉が出てくるのを待っているようだった。

左馬刻は、二人のやり取りを見ながら、もう一本タバコを吸うことにした。


「そっかー、おトイレに行ったら、部屋に戻れなくなっちゃたんだね」

「う、うん」

「一人でおトイレに行くなんてスゴイね。大丈夫だよ、私と一緒にお部屋探そうか!」

「うん!ありがとう」

「お礼が言えるなんて、いい子ねぇ。手、つなげる?」


泣きやんだ子供はどうやら迷子だったようだ。
女は立ち上がり、子供に自分の手を差し出した。
子供はすっかり元気になって、勢いよく女の手を握り返した。そして、二人が歩き出した時だ。


「・・・っ!」

「ふふ、行こうか。どこかなー、部屋?」


女は、コチラに少し振り返り、会釈とともに笑みを浮かべた。


(俺の存在に気づいてやがった・・・、なんだコレ。うぜぇ)


左馬刻は、女が自分に笑みをしてきた際、どきりと自分の心臓が鳴ったのがわかった。
今までにない衝撃とともに、くわえていたタバコを危うく落としそうになったのだった。
左馬刻、気を取り直して、まだ半分ほど残っているタバコを捨て、違和感が残ったままの
心臓の位置に手を置きながら、縁談の部屋へ戻っていったのだった。



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