氷結のプリンセス
□氷結のプリンセス
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【17歳の少女】
あれから17年後-トウキョウ。
低体温で生まれた子はミウと名付けられ、銀色の髪を風になびかせながら颯爽と歩いていた。
都内の高校に通い制服に身を纏って最寄のバス停に向かっていた。
「甘い香りがする…」
春の温かい風に乗って甘い香りが漂ってきた。
街中で桜が開花しているので、桜の香りかと思ったがこの香りは桜のモノではない。
香りが向かってくる方向を眺めていると、バスが走ってきた。
今から自分が乗るバスだ。
バスが自分の前に止まり扉が開いたが、降りる人がいるようだったので立ち止まった。
中からサングラスをして、白髪の後ろ髪を束ねた男の子が降りてきた。
すれ違う瞬間サングラスの隙間からエメナルドの瞳をのぞかせた。
(甘い香り…キンモクセイの香りだわ!)
気を引く甘い香りに誘われ彼から目を離せなかった。
彼の背中と揺れる後ろ髪を眺めていたら、彼のお尻のあたりから黒い影が落ちた。
ハッとして落ちたモノを見るとサイフだ。きっとお尻のポケットに入っていたのだろう。
「サイフ!」
「あのーお客さん、乗らないんですか?」
「えっ…!んー、いいですッ!」
サイフ落としましたよ、と言おうとしたが彼は気づかず歩いて行ってしまう。
運転手さんに乗らないのか聞かれて迷ったが、落ちたサイフが気になり乗車を断った。
バスが扉をバタンと閉めてたのと同時に、私はサイフを拾って彼まで駆け足で追いかけた。
「すみません!」
(もしかしてボクのファン?)
彼の体がピクンと反応して止まってくれるかと思ったが、なぜか速足になってしまった。
一体どういうことよ…!
人がサイフを拾って届けてるというのに、気づいていないフリ?
私は走って彼の前へ回り込んだ。
「待ってください!サイフ落としましたよ!」
「アレ本当だ、サイフがない。ごめん追っかけかと思っちゃった」
「はい、サイフです!」
「ありがと…。バス行っちゃったけど大丈夫?」
「次のがあるから…」
「馬鹿だね。人のためになんかにさ」
彼は呆れたように言うと、かけていたサングラスを頭にかけた。
さきほどチラリと見えた綺麗な瞳とぱっちり目があった。
わぁ綺麗な男の子…。
しゅっとした顔にパチリとした少し鋭い瞳。こういう男の子を美少年というのだろう。
その姿に見惚れていると、彼は目を離して自分のサイフを開けた。
「ほらコレで足りる?タクシー代に使ってよ」
「う、受け取れません!」
「別にいいのに。次のバスまで30分以上あるし、それまでなにしてる気?」
「うーんと…」
「ほらね、とりあえずコレ使いなよ」
彼は5000円札を取り出すと私に差し出した。
自分が勝手にサイフを届けたので申し訳なかったから断ったが、彼は私の手を取りお金を無理やり渡そうとした。
しかし彼に手を掴まれた瞬間、体に電気のような衝撃が走った。
なに今の?…静電気?
(すごく冷たい手をしてる…。この子が?いやでも気のせいか)
5000円札をくしゃりと手の中に入れられた。
しまった。静電気に気を取られてしまった。
彼はすでに数メートル先を歩いていて、背中越しにひらひらと手を振りながら歩いて行ってしまう。
だけどやっぱり申し訳なくなって結局バスが来るまで待つことにした。
渡されたお金は慎重にしわをのばし、封筒に入れてまたいつか会ったときに返すことにした。
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