─原作サイド・その後─

□冷砂
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順調に復興が進んでいくアルバーナの町並み。
それを見ながら夜の町の中を歩く。
復興の責任者として、この町を傷付けた者として、その町がまた元の姿に戻っていく事に、それに加われている事に、気持ちが満たされていく。
心の中にいつもある罪悪の感。
それを越える程の、日々大きくなっていく町の賑わい。
それが何より嬉しく思える。
(…………、…ビビ…?)
皮膚を刺してくるような寒さの中、近付いた南ゲートから、月明かりに薄く浮かぶ砂漠にビビの姿が見えた。
(…………)
この南ゲートの砂漠の景色は俺にとっては忌まわしい記憶の場所の一つ。
アルバーナを攻め落とすと、みんなを率いてここから攻め込んだ。
(…………)
その時の記憶を思い出すのも俺には苦痛で。
だが罪の償いとして、己の戒めとして、決して忘れてはならねぇ、愚かだった自分とあの頃の記憶。
(…………)
その場所に立っているビビが何となく気になって、忌まわしい記憶が残る南ゲートの階段を下りた。
「…ビビ」
「、。リーダー」
凍てつきそうなくらいに冷え込む砂漠の夜に薄着で佇むビビに声を掛けて、振り向いたビビは月明かりに照らされて、酷く淡く浮かんで見えて。
まるで幻みてぇに感じるそのビビに近付く。
「何してるんだ。こんな時間にこんな所で」
「…。うん、ちょっと」
笑みながら返してくるビビの顔は、俺の記憶の中にあった顔とは違っていて。
成長した顔つき。
16の顔つき、姿。
あの頃より成長した、随分王女らしくなった姿。
「…。被ってろ。風邪引くぞ」
「、。うんごめん。ありがとう」
肩から巻き被る、防砂と兼用の防寒布を外して、ビビに渡して。
それを肩から被り巻いたビビの顔が俺を見上げてきた。
「今からユバに帰るの?、リーダー」
「いや、明日早朝から復興の事で話合いがあるらしいから今日はアルバーナに泊まる。いちいちユバまで戻るのは骨だろうと、今日は宮殿に泊まっていけと国王に言われたからな…」
「そう…。やっとそう言う言葉を受け取ってくれるようになってくれたのね」
(…………)
反逆者の俺がこのアルバーナに足を踏み入れる事には未だに抵抗の感はある…。
それでもそれを乗り越えられているのは、コブラ王とビビのおかげでもある。
コブラ王は俺達反乱軍に加わっていた者達全てを処罰する事も無く、過去を受け止めながら前を向いて生きる事が償いだと示して。
ビビは俺が罪悪感を乗り越える度に、嬉しそうに笑みを浮かべる。
寛大な王と優しい王女。
昔と変わらず、俺を昔と同じままに受け入れ、接して。
その二人の心のでかさが、俺の前に進む力を押してくれている。
「…そろそろ宮殿に戻れ。これから益々冷え込みがキツくなるぞ」
「…うん…。でももう少しここにいたいの…」
「…………。なら俺ももう少し居させてもらう。いいか」
「……。うん…」
笑いながらのビビの頷きに、何かを思ってここに居るみてぇに思えるビビの邪魔にならねぇように、少しビビから離れて。
砂の地面に尻を下ろして、立てた両膝に肘を掛ける。
前を見れば浮かぶ幻影。
二百万の反乱軍の波。
このアルバーナへと進攻してくる、自分達の幻影。
それと向き合う。
自分の過ちに気付かなかったあの時の自分と、自分の過ちに後悔している今の自分。
(…………)
それを眺めながら、視界の中に居るビビに気を向ける。
俺は今自分を見ていて。
こいつは…、今ここで何を見ているのか。
(…………)
思い出す光景。
忌まわしい記憶の中の、あの時に見た一瞬の光景。
馬を走らせ、陣頭を切ってこのアルバーナに攻め入ろうとしていたあの時。
あの、砲撃での砂煙が立ち込めた一瞬前。
見えた人影。
(…………)
今も砂漠に立つビビ。
あの時と同じ場所に立って、砂漠を見ているみてぇなビビを見ていて思う。
あれは…こいつじゃなかったのか…。
あの時はこのアルバーナへ攻め込む事と、一瞬しか見えなかった事に、確かめる事もしなかった。
だが今は…。
(…………)
「っ……」
「、」
考えている時に吹いた風に、ビビが両腕を抱いて、体を微かに震わせた。
「寒ぃんだろ。もう戻れ」
「ううん、大丈夫」
「………」
ガキの頃から少し強情な所があったこいつ。
それはまだ消えてはねぇらしい。
それとも…それでもまだこの場所に居てぇのか。
「…。ならお前も座ってろ。立ってるよりゃあ寒さもマシだろ」
「…。うん」
俺の促しに、それには頷いて横に歩いてきた。
「昔もこうしてたまに星を見たわよね」
「……ああ」
防寒布の中で両膝を立てて座ったビビの、砂漠を見ながらの言葉に、ガキの頃の事を思い出した。
やんちゃなヤツだったわりには女らしいところもあって、時々きれいきれいと星を眺めていた事があって。
俺も何となく今と同じように、横でそれを見上げて。
二人で星を見ていた。
(…………)
ガキの頃から、俺にとってはこいつはどこか特別な存在だった。
王女であり、砂砂団のメンバーの一人であり。
リーダーと副リーダーとして、誰とよりも近くに居た。
(…………)
それはあの頃と何も変わらねぇ。
俺にとっては、こいつは今でも副リーダーとして、誰より近い距離に居る存在。
『すげぇ町を作って、この国をもっと潤してやるさ!!』
『じゃあなビビ。お前は…立派な王女になれよ!!』
『うんっ!!』
数年離れていても、俺の中にはあの約束があった。
いつかユバを立派な町に。
こいつに言ったその約束と共に生きていた。
…だってのに、反乱軍に入った…。
…こいつを思い出す事も、こいつが悲しむ事も考えなかった…。
雨を取り戻す。
アラバスタに雨を。
枯れていく町。
死んでいく人。
それを見ていられなかった。
アラバスタに雨を降らせる、それしか頭に無かった。
国王に剣を向けてでも…。
同じ…"国"を護る兵士達を傷付けてでも…。
(…………)
それが全て敵の…この国の本当の敵だった男の策略とも知らねぇで。
砂砂団のみんなや、国王軍、アラバスタ中の人間を巻き込んで。
この国の本当の敵の画策に嵌まっている事も知らねぇままに…。
取り返しの付かねぇ事をした…。
「………なぁ……ビビ…」
「なに?」
そんな間違っていた行為の途中に一度だけ見た人影。
あれがこいつだったのなら、ビビはその頃の記憶を今ここで見ているんだろうか…。
「あの反乱の時…、俺達はこの南ゲートの砂漠から攻め入ってきた…。その時に…俺は一瞬人影みてぇなものを見た…」
「え……」
「確かとは言えねぇ…。けど爆撃の砂煙が上がる前の僅かな時間、一瞬だけ人影みてぇなものが見えた気がした」
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