─原作サイド・その後─

□他視
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「リーダー、ここどうしたらいい?」
「そうだな…。ここをこうすりゃこっちの手は少し空くだろうから、その人手をここに回せば作業時間の短縮が出来るんじゃねぇか?」
「そっか。じゃあそれでいきましょ」
(…………)
我らこの国に住む者達にとっては厳しく、苦しく、辛かったあの悪夢の日々。
それも過去のものとなってから、早くも一年が過ぎようとしている。
町の復興作業も国民達全員の活気漲る作業のおかげで、たった一年足らずでアルバーナの町並みはまた昔のままの姿へと戻った。
そして今着手している、壊滅してしまったナノハナと枯れに滅びたエルマルの再建の工事作業の事で、宮殿前の広場で相談し合う、二人の若者の姿をペルと眺める。
ビビ様とコーザ。
コーザはあの激戦の中で負った傷の痛みを押しながらも、先頭に立って町の復旧作業に励んでいた。
ビビ様もそんなコーザを心配しながらも、王女とは思えぬ軽装で、手足や体、顔にまで泥を付けて民と共に復興作業に携わっていた。
他国から見れば、王女が泥にまみれながら土木作業に混じっているなど考えられない光景だろう。
だがこれがこの国の姿。
民が『国』ならば、王家の人間とて、また『国』の一人。
民と共に生き、民と共に喜びや苦悩を分かち合う。
それがこの国の王と王女の考え方。
だからこそ、俺やペルは誇りを持ってこの国の王と王女に仕えられる。
「あ、そうだリーダー。あとでちょっと客室に来て?」
「あ?」
(ん…)
コーザを宮殿に招いたビビ様。
その態度は子供の頃、コーザを宮殿へ招いていた時の様子とまるで同じ。
はにかんだ様子も、特別な相手を招く態度でも無く。
ただ幼なじみや友達を招く態度そのもの。
(…………)
…ビビ様とコーザ。
この国の王女であられるビビ様。
その幼なじみのコーザ。
そのコーザを見ながら思う。
あいつがアルバーナを出て以来、長らく見はしなかったが、随分と逞しく成長した。
子供の頃から正義感と責任感が強く、このアラバスタを護る砂砂団のリーダーとしての力を得る為に、俺に剣の指南を求めてきた時のあいつと今のあいつが重なる。
人の事を思いやる優しさも持ち、その優しさと愛国心故に反乱軍の陣頭者になるという誤った道を選んではしまったが。
その二百万の軍勢を纏め率いた統率力と、なによりそれだけの人間に慕われ頼られる人柄。
そして今は復興作業責任者としてビビ様の良き相談相手、そして年上の幼なじみとしてビビ様と並ぶ姿は頼もしく微笑ましく、そして似合いで。
国王とイガラムさんはどう思っているのかは解らないが、俺やペル、そしておそらくアラバスタに住む者にとっても、ビビ様とコーザは理想の二人として、誰もがあの二人の姿に俺同様微笑ましさと、アラバスタの未来への確かな希望を見ている筈だ。
だが、当の本人達二人は、全く互いを意識している様子は感じられない。
まさにただの幼なじみ。
ビビ様は未だコーザを"リーダー"と呼び、子供らしい幼い関係は消えたものの、色恋の間柄特有の空気感は全く感じられない。
ビビ様ももう17歳。
少しはコーザを男として見てもいい、恋愛に興味が向いても当然の年頃だろうに。
コーザもビビ様をどう見ているのか、ビビ様に接する態度からは全く推し量れない。
確かに、ビビ様は王女、コーザは国民。
その身分の違いを考えれば、コーザには特にビビ様にそういった意識を持つ妨げになっているのかもしれない。
だが、あれだけの器量と心根を持つビビ様の近くにいながら、それでもビビ様に対して特別な感情を持つ事も無く、ビビ様の事を恋愛の対象として考えていない、考えられないのだとすれば、やはり年下の幼なじみとしての意識しか無いのか。
それとも他に意中の娘が居るのか。
(…………)
雨と共に平和も戻り、復興の多忙さの中にはあっても穏やかな時の中だというのに…。
我らが姫君と、その伴侶、そして次期王となるに相応しい青年は、互いを恋愛の相手とは見ていないようだ。
あれ程までに似合いの仲も居らぬというのに…。


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