─原作サイド・その後─

□手
1ページ/2ページ

「リーダー」
「ん…」
勉強部屋として与えられた部屋で、している事にまた集中していて、ドアが開いた音にも気付けねぇで。
意識が向いたのは、横から聞こえた、ビビが俺を呼んだ声にだった。
「勉強お疲れ様。はい、お茶」
「ああ、すまねぇな」
差し出された水滴の付いたガラスコップに、また喉が渇いている事も意識に無かった事を知りながら、そのコップを受け取った。
冷たさが手を冷やして、その冷たさを喉に流し込む。
何かのハーブティーらしかったその液体を一気に飲み干しちまったが、おかげで喉と、ついでにこっちも乾燥していた口の中も潤った。
「おかわりは?。いる?」
「そうだな、お前が暇なら頼みてぇが」
「暇じゃないわよ、私だってこれでも王女としての勉強で忙しいんだから。でも仕方ないから持ってきてあげる♪」
わざと恩着せがましい言い方で、それを楽しげな、そして嬉しげな笑顔で言って、俺が差し出したコップを持って出て行った。
(たく…)
その姿に軽い笑いが出る。
ガキの頃の俺なら、あいつのあんな物言いにムキになって怒っただろう。
だが俺ももう21。
17になってもまだガキの頃みてぇなやり方で俺に接してくるビビの態度に、逆にあいつはまだガキだなと笑えるくらいには成長はした。
だがあの茶化しの態度が、俺と昔みてぇに軽口を言い合える関係に戻れている事への嬉しさから来ているもんだってのも何となく解るから、尚更腹は立たねぇ。
(…………)
この部屋に居ると時間を忘れる。
環境大臣の見習いとして、その為の勉強に集中して。
時間の経過も、腹の減りも、喉の渇きも気には入ってこねぇで。
それに気付くのは、ビビが再々様子を見にくるから。
あいつが来る事で、時間、そして腹の減りも喉の渇きも、その時に気付かされる。
それ程集中出来るくらいに、俺にとって『環境大臣』に任命された事は嬉しかった。
あいつとコブラ王がくれた役職。
それを勤める為に、そしてこれからはビビやこの国の力になれるように。
今まで目を向けた事も目を通した事もねぇ、『法と政治の本』を開いて、環境大臣として必要な知識を頭に叩き込んでいる。
それが楽しくて、自分の状態も、時間も忘れる。
(…とは言え、なかなかこれが手強いんだがな…w)
勉強なんて本腰入れてした事は無かった。
気を入れてした勉強と言えば、ガキの頃から町作りに必要な事が書かれた本を読んでいた事と…。
(…………)
どう国を攻め落とすか。
戦略や、銃器の扱い方。
それに関連する書物。
そんな本をかき集めて、寝ずに頭に叩き込んだ。
そんな愚かな事に時間を費やしていた…。
(…………)
「リーダー」
「、」
今度はドアが開く音が聞こえて、同時にしたビビの声に振り向いた。
「はい、おかわり。今度は一気飲みしないでよ?」
「解ってるよ。悪かったな、世話掛けて」
気が沈みかけていた時に視界に入ったビビの姿と笑う顔に心なし安堵を覚えながら、受け取ったコップの中身を一口飲んで、コップから口を離す。
「もういいからお前も勉強に戻れよ。忙しいんだろ」
「ん…、あ、じゃあリーダー、私もここで一緒に勉強していい?」
「あ?。お前と?」
「うんっ。リーダーが勉強してた事なんて昔はなかったし、だから二人で勉強するなんて事も初めてだしっ。二人でしたら解らない所も一緒に考えて解けるじゃない?」
「…お前が解らねぇような問題が俺に解けると思うのか…?w」
今までずっと王女として難しい事も色々山程勉強してきただろうこいつ。
片や俺が今まで勉強してきた事と言えば、反乱の勉強と町作りの勉強だけ。
こいつに解けねぇ問題が俺に解けるとは思えねぇ…w。
「いいじゃないっ、一度リーダーと勉強してみたいのっ。待ってて。必要なもの持ってくるからっ」
随分とはしゃぎ気味に部屋を出て行ったビビ。
相変わらず思い立ったら即実行。
その行動力で、あのクロコダイルが統括していた闇組織にもスパイとして潜入していた。
それを聞かされた時は、ビビがそんな事をしなけりゃならなかったあの頃の国の状態と、あんなペテン師に欺かれていた自分に悔しさを覚えたが。
同時にあいつのその行動にも驚いていた。
「…全く、すごいヤツだな…」
自分も行動力、実行力はある人間だとは思っているが、あいつは女。
王女という事を除いても、あいつは本当にすげぇ、そして立派な人間になっている。
「ん…」
あいつの強さに俺も負けてられねぇと気を入れ替えて、ビビが出て行ったあとの開きっぱなしのドアから机に顔を戻す。
「………」
二人で勉強をやるのならこの机じゃ少し狭ぇ。
だが他に机も、それに代わる台もねぇ。

「お待たせっ。じゃあ始めましょっ」
しばらくしてビビが戻ってきて、その手に持っているのは、やたら分厚い本を十冊程積み上げ乗せたイス。
それを少し重そうに下げ持ちながら、イスを俺のイスの横に下ろした。
「♪」
やけに楽しげな雰囲気で積み重なった本を机に置いて、イスに座ったビビ。
「ほらっ、早くリーダーも勉強してっ」
「……w」
随分浮かれて促してくるビビに、やっぱりこいつはまだガキだwと思いながら、机に置いていた本をまた手に持つ。
(…………)
横に座るビビの座高は、並んで座る俺の肩までしかねぇで。
細ぇ体の幅に、狭くなるだろうと思っていた机の幅も案外充分並んで座るスペースが確保出来ている。
積み重なった本の一番上から取った本を開いて、次の瞬間には真剣な顔つきでそれを読み始めたビビから、自分も自分の勉強の続きを始める。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ