─原作サイド・その後─

□冷砂
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(…………)
リーダーの言葉に、思い出す。
"あの時"の事。
リーダーやみんなを止める為に、Mr.ブシドーやナミさん達の協力を得て、私はここに来た。
そして立ち塞がった。
ここで反乱を食い止める為に。
結局、それでもあの時は止める事は出来なかったけど。
(…………)
気付いてくれたんだ。
一瞬でも。
「…あれは…、もしかしたらお前だったんじゃねぇのか…?…」
「………なんの事?」
…あれは確かに私。
そして今、リーダーが一瞬でも私に気付いていてくれた事が嬉しい。
失敗には終わったけど、一瞬でもリーダーが私に気付いてくれてたのなら、私のした事は無駄にはなってはいなかった事が解れたから。
でも…誤魔化した。
あれが私だったと言ったら、またリーダーは…コーザは自分を責めるから。
せっかく昔のようなコーザに近付いてきてくれてるのに。
罪悪の表情が消えてきてるのに。
あれが私だったと知ったら、また自分を責める。
罪悪の顔をまた浮かべる。
そう思ったから。
「私はこのアルバーナに戻ったらすぐに宮殿に向かったわ。この南ゲートも使ってないし」
「…そうか…」
「…どうして私だと思ったの?」
リーダーが一瞬だけ見た私。
私とも気付かなかったくらい、本当に一瞬だけ見た人影。
それを私だと思ったその理由が訊いてみたくなった。
「いや…」
(………)
私を見て話していたリーダー。
その顔が砂漠の方を向いた。
その横顔はどこか遠くを見ていて。
「…あれも気のせいだったのかもしれねぇ…。あれがお前じゃねぇんなら、やっぱり気のせいだったんだろうが…」
「なに?」
「…声を聞いた気がした」
「え…?」
「反乱軍の咆哮や馬や駱駝の蹄の立てる地鳴りの中で、微かに『リーダー』と聞こえた気がした」
(────)
リーダーの言葉に意識が集中した。
聞こえてた。
届いてた。
私の呼び声が、リーダーに。
「それにお前はアラバスタを取り戻す為に、…俺達を止める為にお前に協力してくれた海賊達と奔走したとチャカから聞いた…。お前なら俺達がアルバーナへ押し入る前にここで止めようと考えるんじゃねぇかと思った…」
「…そっか。そんな手もあったのね。思い付かなかった」
「…そうだな…。お前はまだ16だ…。あんな激動の中でそこまで考えられる筈がねぇよな…」
「…うん」
やっぱり誤魔化してよかったと思った。
リーダーの笑みの表情は、それでもどこか悲しそうで。
反乱の事、また考えてる。
自分を責めてる。
そんな顔をまた見る事にはなってしまったけど。
でも、あれが私だと解ったら、もっと自分を責めるだろうから。
だから、嘘をついてよかった。

(…………)
どうやらあの人影も呼び声も、殺気立っていた為の俺の気のせいだったみてぇで。
その事に安心した。
(…………)
あの時、全員が"前"しか見ていなかった。
馬を走らせ、駱駝を走らせ。
だからもしあの時のあれが俺の気のせいじゃなかったら…。
本当にこいつがあの場に居たんだとしたら…。
誰も…俺もこいつの存在に気付かずに。
(────)
何度か考えたそれを思い返して、また寒気がした。
二百万の蹄。
そこにこんな細ぇ体が立ち塞がっていりゃあ…。
こいつは…。
(…………)
こいつを失くしていれば。
もしあの時、実際にこいつがここに居て。
俺達がこいつを殺しちまっていれば。
それこそ、取り返しの付かねぇ事になっていた。
『この国の王女を殺した』。
他のメンバーにはそうでしかなかっただろう。
けれども俺には…砂砂団のみんなには違う。
『ビビ』を殺した。
子供の頃、共に生きていたビビを殺した。
ずっと護ってきたビビを殺したと。
この国にとって、俺達にとって掛け替えのねぇ、『ビビ』という大事な存在を。
その命を奪っちまっていたとしたら…。
(…………っ…)
それを考えて湧き立つ、反乱者になる事を選んだ自分への憎悪。
そして…あの人影や声が俺の気のせいだった事への安堵。
(…………)
それでも、こいつの"強さ"を改めて思う。
昔からこいつは勝ち気で。
お転婆な奴だったが心は強くて、優しくて。
人の死で泣く事はあっても、自分のつらさには負けねぇ。
泣かねぇ。
その強さが、こんなにまでなっていた。
イガラムに聞いた、この二年のこいつ。
たった14の女が敵の本拠地にスパイとして二年も潜伏して、その裏を暴いて。
争いを止める為、国を取り戻す為に、王下七武海の海賊相手にまで立ち向かって。
(…………)
汚れちまった手…。
…裏組織に入っていたんなら、汚れ事にも手を染めたんだろう。
人が死ぬ事に泣いて、傷付く事を怖がっていたこいつが、人を傷付け、もしかすりゃあ殺した事もあったのかもしれねぇ。
それをしてでも、国を取り戻そうとした強さ。
その強さの為に汚れちまったこいつの手。
(…………)
その手を、また昔みてぇに護れたら。
この国を壊そうとした俺の汚れた手でも。
国を取り戻す為に汚れたこいつの手が、もうそれ以上汚れる事がねぇように。
こいつを護っていこう。
こいつとこの国で生きる者として。
この国の王女としても、ガキの頃の砂砂団の仲間としても。
俺の手が汚れたとしても、こいつの手がもう汚れずにいられるように。
こいつが汚れずにいられるように。
これからはまた…、こいつのリーダーとして。
昔と同じように。
これからはずっと、これからもずっと。
こいつはそれを許してくれるだろうから。
汚れた俺の手でも気にせずにいてくれるだろうから。
だからまた、この命に代えてもこいつの事を護っていこう──。

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