非公開

□君は幼馴染み
5ページ/11ページ




今日の私は、異常にテンションが低い。


空は灰色の雲に覆われて、雨の降っているグラウンドを見つめてため息一つ。



5、その昔話はするな



「羽柴ー?体調悪いのかー?」

「いいえ、テンションが悪いだけです。」

「だったら、ちゃんと授業受けなさい」

「いだっ!!」


現代文の教科書が降ってきた。


現代文の教科書は重いんだぞ!


「じゃ、授業終わるぞー」


あぁ、やっと授業終わった・・・。

今日はもともとテニス部は無いらしいから、
早く蓮ニの所に行って、一緒に帰ろう。


「れんじぃ〜・・・」

「ふっ・・・やはり来たか。」

「データマン蓮ニには、何でもお見通しですかね・・・」

「さ、帰るぞ」


まだ、雨は降っていない。

ただ、雲行きは怪しい・・・。


「あー・・・嫌だなぁ・・・」


こういう天気は嫌いだ。

頭が痛くなるし、なにしろ


―ゴロゴロゴロ・・・


「ぴゃっ!!」


大嫌いな雷が鳴る・・・。


「ほら、止まるな。」


昔から雷の音が聞こえると、どうしても足がすくんでしまう。


「うぅ〜・・・」


とにかく歩かなければ家にはたどり着けない。

蓮ニのワイシャツの背中を掴んで、
出来るだけ離れないように歩く。


そして、空からうねる様な雷が聞こえれば、
小さな悲鳴を上げて蓮ニを引っ張ってしまう。


私が止まれば、蓮ニが止まって、
蓮ニが歩き出せば、私もそれに合わせて蓮ニの後ろを歩く。


「はぁ・・・かなた、」

「ん・・・何、蓮ニ・・・」

「腕を貸してやるから、とにかく歩け。」


差し出された手を握ると、
すっぽりと私の手を包んでしまえるほど蓮ニの手は大きかった。


「雨が降る前に帰ろう。」

「・・・うん・・・」


そして、いつもよりもちょっと早く歩く蓮ニに引っ張られながらの帰り道。


やっとこさ蓮ニのうちが見えてきた・・・。


「蓮ニ・・・今日、」

「『部屋に来てもいいか』とお前は言う。」

「私が言うんだから、『部屋に行ってもいいか』だよ、蓮ニ」

「答えは、」

「『勿論Yesだ。』と蓮ニは言う。」

「ふっ、これはやられたな・・・。」


蓮ニの話は面白いから、雷の音なんてどうでもよくなってしまう。

蓮ニは、言葉だけで私を雷の音なんか届かない遠い世界へ連れて行ってしまうのだ。


「ただいま。」

「おじゃましまーす。」

「あらあら、かなたちゃん!今日雷酷いものね〜」


手を繋いだまま蓮ニのお家に入ったって、それはもう見慣れた光景なのだ。


「えっ?かなたちゃん?!」


そして、お母さんの声で奥から急いで出てきたのは、
蓮ニのお姉ちゃん。


「きゃー、かなたちゃん相変わらず可愛いわねー」

「わふっ・・・ちょ、お姉ちゃん苦しい・・・」

「姉さん・・・」

「あら、嫉妬?蓮ニばっかり独り占めなんてずるいじゃない!お姉ちゃんにもハグくらいさせなさい!
はぁ〜かなたちゃん、会いたかった〜」


親が共働きの私の家は、
9時くらいまで両親共に帰ってこない。

ここらへんは、同い年の友達は少なくて、蓮ニが引っ越してきたときは凄く嬉しかったっけ。


一人っ子の私は、蓮ニに姉が居ることが凄くうらやましかったけれど、
お姉ちゃんは私を妹(弟?)のように可愛がってくれて、今では弟の蓮ニよりも溺愛されている。


「かなたちゃんが本当に妹になってくれたら嬉しいのに・・・ね?蓮ニー」


なんて意味ありげに言いながら、お姉ちゃんは蓮ニに話をふる。
え、何で?


「努力しよう。」

「え?何で蓮ニが努力するの?」

「お前は黙ってろ。ほらまた雷が、」


ゴロゴロゴロッ


「きゃぁっ!!」

「っ?!・・・かなた・・・」

「まぁっ!これはかなたちゃんが妹になるのも近いかしら?ねぇ、蓮ニ?」

「れ、れんじぃ〜」


今までで一番大きくうなった雷に驚いて、
近くに居た蓮ニに飛びついた。


「はぁ・・・とりあえず部屋に行くぞ。」

「わぁっ!!」


突然蓮ニに抱き上げられて、一気に視界が高くなった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ