非公開

□変態に恋されてしまいました
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ハロウィンの日は、きっと二人とも雰囲気に持っていかれてしまったんだ。

白昼夢でも見ていたんだ。


だから、きっと、いつものように「おはようございます」と言えば、

いつもどおりの今日が始まる。




5、大人しいとなんだか寂しいです




テスト前は、当然朝練も無い。

よって、私は朝から蓮ニ先輩と会うことも無い。


朝から後ろから抱きつかれ、耳元で低い声で囁かれ、太股を撫でる・・・そんなセクハラ(本人いわくスキンシップ)も受けずにすむのだ。


「あれ?かなたちゃんなんだか元気ないね?どうしたの?」

「・・・え?」


クラスの友達に言われた一言。

元気が無い?そんなわけない。


「えっ、気のせいだよ〜
むしろ今日は朝からテンション高いよ!!」

「でも・・・」

「大丈夫大丈夫!あ、1時間目野上の英語じゃなかったっけ?今回テストやばいんだよねぇ・・・。」

「あぁ・・・前回はかなたちゃん山が外れて赤点ぎりぎりだったもんねぇ〜」


でもその日、たいへんやばい英語の授業は全く頭に入らなくて、

それどころか、午前中の授業全滅だ・・・。


心此処にあらず・・・

やっぱり、友達の言ったとおり、私はどこか調子が悪いのだろうか・・・。


「お、かなた〜、今日は俺たちとお昼食べんしゃい」

「あ、仁王先輩。どうしたんですか?」

「いやなー、赤也のヤツが今回のテスト本気でやばくて、今参謀が付きっ切りなんぜよ・・・」


いやいや、それが何故私がテニス部レギュラーとご飯を食べることになるのか・・・。


「この頃、ずっと参謀とご飯食べてたじゃろ?じゃから、独りぼっちになったらかわいそうじゃし、

そのほうが、参謀も安心だからのう」


「安心?あ、まぁ、レギュラーの皆さんが良いなら、、、」


「かなたなら大歓迎ぜよ」


そういえば、蓮ニ先輩はいつご飯を食べるのだろうか・・・

あ、切原先輩もだけど。


切原先輩に至っては、自業自得というヤツだ。


「お、かなたじゃん。」

「丸井先輩コンニチハ。」

「え、なんで片言・・・。ってか、何で?あー・・・そっか、柳いま赤也に付きっ切りなんだっけ・・・。」

「切原先輩そんなにやばいんですか?」

「いや、まぁいつもやばいんだけどアイツ。前回2つ赤点取りやがって、今回落としたら単位がヤバイ。」


え・・・どんだけ・・・。


「む、かなたか。今日は一緒に食べるのだな。」

「あ、真田先輩。はい、仁王先輩に誘われて。」

「なるほど、すまないな、赤也が今回は流石にまずいので、蓮ニに勉強を見てもらうのを頼んでしまった・・・。」

「いや、大丈夫デス。ってか皆さん、私が蓮ニ先輩居ないとぼっちみたいな言い方しますけど、

私、ちゃんとお友達居ますからね?」


ただ、今日は誘われたから此処にいるだけで・・・。


「「「え」」」


いや、それ、何に驚いてるの?

え?私に友達が居ることに驚いてるの?


「だって・・・あんなに柳にべたべたされてんのに・・・」

「かなたは、参謀のファンの子に意地悪されたりしたことないんかの?」

「一度も無いですね。まぁ、ファンの方から見たら、私なんてミジンコなんですよミジンコ」


確かに・・・、

柳蓮ニと言う男は、文武両道、頭脳明晰、背も高く顔もいい。

男女共に人気が高く、先生からの評価もいい。


まぁ、後輩に平気でセクハラする男ではあるが、

もうそれは個性ということで、私の中で片付けている。


「ミジンコって・・・」

「それは・・・いいすぎだと思うぞ、かなた・・・。」

「じゃぁ、雑草ですかね?」


不思議といえば、不思議だ・・・。


いくら私がミジンコ・・・雑草だとしても、
嫌がらせくらいあっても良いのに・・・。


いや、困るけれどね?


「もしかしてさ、柳のヤツがなんか手回ししてんじゃねぇの?」

「ははっ、ないないない」

「即答かよ・・・」


もしも、蓮ニ先輩が私を護る為に、いろいろ努力をしているのだとしたら、

時間の無駄であり、そんなことは馬鹿がすることだ。


「雑草のために、苗を引き抜くようなことは、あの人はしませんよー」


私の知っている蓮ニ先輩は、

しいて言うのなら、道端に生える猫じゃらしで遊ぶ猫だ。


今は気に入られているけれど、

いつしかもっと綺麗な手入れされた花の元に行ってしまう。

それがあの人。




5時間めも6時間目も、ほぼほぼ上の空だった。


やっぱり、どこか調子が悪いのかもしれない。

テストも近いし、早く帰ってゆっくり勉強しよう。


そういえば・・・先輩は、今日は一緒に帰るのだろうか・・・。


「ぁ・・・そっか、今日会ってないんだ。」


自分の勉強もあるのに、切原先輩の勉強も見いるのだ、

忙しいに決まってる。


でも、もしも一緒に帰る気で居るのなら、

私が帰ってしまったら、あの人は私を探すのだろうか?


「んぁー・・・わからん・・・。」


そうこう悩んでいるうちに、

もう、教室には私だけになってしまった。


「・・・勉強、しよ。」


しかたなく、カバンにしまった筆記用具とノートをだして、

カリカリと自分の席で勉強をする。


―カリカリカリ


―チッ チッ チッ


教室には、私がシャーペンを動かす音と、時計の秒針の音だけ。


あぁ、遠くから誰かが走ってくる足音が聞こえる。


耳を済ませて、落ちてきた髪を耳にかける。


「かなたっ!!」


そして、酷く懐かしく感じる低い声に名前を呼ばれて、

ゆっくりと視線を上げる。


あぁ、やっぱり


「蓮ニ先輩、こんにちは」


予想通り過ぎて、

くすりと笑ってしまった。


肩で息をする蓮ニ先輩なんて、

テニスコートで追い詰められているとき意外見たことが無い。

いつもの余裕たっぷりな彼は、どこかに消えてしまったようで、

先輩のレアな様子をたっぷりと観察する。


「・・・かなた。」

「はい、なんですか?」

「帰ったかと・・・思っていた・・・。」


あぁ、そうですね、

帰ろうと思っていたよ、1時間くらい前までは。


「勝手に帰ったら、蓮ニ先輩が探すと思って。」

「そうだな、居なかったら意地でも探していた。」

「ははっ、テスト前ですよ、そんな無駄なことさせませんよ。」

「でも・・・」


蓮ニ先輩が、本当にほっとしたように、眉を下げて笑った。


「本当に、帰ってしまったと思ったんだ。」


あぁ、始めてみる顔だ。


そして私は、ふとある違和感を覚える。


「蓮ニ先輩?」

「ん?」


蓮ニ先輩は、さっきからずっと教室の扉のところに立ったままだ。


あの、蓮ニ先輩が。


「どうして、こっちにこないんですか?らしくないですね。」

「ふっ・・・あぁ、どうしてだろうな・・・。」


なんで、そんなに苦しそうに笑っているの?


「先輩にも、分からないんですか?」

「分からない・・・というよりも、自信がないんだ。」


なんで、こっちを向いてくれないんですか?


「自信が無い・・・データではどうしようもないんですか?」

「そうだな・・・こんなことは初めてだから、俺にもどうしようもない。」


なんで、自分を責めているみたいなんですか?


「・・・蓮ニ先輩。」

「なんだ?」


先輩から、近づけないなら、

私が傍に行くまでだ。


「先輩が大人しいと、なんだか寂しいです。」

「それは・・・どういう意味だ?」

「言葉どおりに。」


先輩の真正面に立って、やっと、先輩が私を見てくれた。


「かなた。」

「はい。」

「抱きしめてもいいか?」

「もちろん。」

「っ・・・」


背の高い蓮ニ先輩の腕の中にすっぽりと納まる。


あぁ、蓮ニ先輩の匂いだ。

なんだかこれも久しく感じるのは何故だろう。


「自分から傍に行ったら・・・耐え切れる自信が無かったんだ。」

「抱きしめるのを?」

「あぁ・・・」


いつも勝手に抱きついてくるくせに、

いつも勝手に無遠慮に触れるくせに、

いつも勝手に、私の心を捕まえてしまうくせに・・・


「今更、何を言っているんです、貴方は。」

「・・・昨日のことで、嫌われてしまったんじゃないかって、今日一日不安だった。
会いに行こうと何度も思ったが・・・理由をつけて、会いにいけない状況を作った。」


顔を見ようとしたら、ぎゅっとさらに力を込めて抱きしめられる。


「策士、ですね。」

「・・・」

「で、自分で自分の首を絞めた、と・・・ははっ、先輩なんだかんだ馬鹿ですね。」


思いっきり胸を押したら、

今度はすんなりと腕が解けた。


秀才の先輩に『馬鹿』は少なからずダメージを与えたらしい。


「今更、先輩を嫌いになるわけ無いでしょう?
それも、高々ハロウィンですよ?」


私が貴方を嫌いになるなんてことは、転地がひっくり返ったってありはしない。

だって私は、

随分と前から貴方に惚れていたのだから。


「蓮ニ先輩・・・」


めいっぱい背伸びをして、

耳元で小さな愛の言葉を。



おまけ

「成功したかー、参謀」

「あぁ、大成功だった。」

「意外と演技派じゃのー。かなたもだいぶ変人に好かれたの」

「ふっ、全て俺のデータ通りだ。」

「俺がシナリオ提供してやったん、忘れるんじゃなか」

「む、あそこに居るのは・・・

かなたっ!」

「って、人の話を聞きんしゃい!」

「あ、蓮ニ先輩と仁王先輩だ。こんにちは。」

「かなた、下着の色のデータが欲「黙れ変態!」

全ては柳蓮ニのデータ通りだということを、まだ彼女は知らない。




(お題提供:確かに恋だった 様)
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