非公開

□恋ってやつは、
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足元に消しゴムが転がってきた。

あぁ、羽柴のだって思って、

振り返って、消しゴムを渡した。


指先が触れ合った瞬間、羽柴が真っ赤になって、顔を背けてしまった。




4、追いかけると逃げていくらしい




その一件から、羽柴はあからさまに俺を避ける。


昼休みが始まれば、それまでは教室で友達と食べていたのに、

そそくさとどこかに行ってしまうし、

目が合えば、すぐに反らされる。


「へぇ、深司にも春が来たか〜」

「笑い事じゃない・・・」

「まぁまぁ、そう睨むなって〜」


そして、そんな話を目の前でへらへらしてるこの男、神尾アキラに何故言ってしまったのか・・・。

10分前の自分を殴りたい。

殴られたら、殴り返すけど。


「ってか、羽柴って言えば、人気高いのに全然色恋の話聞かねぇよなー」


人気があるのは知ってるけど・・・

そういう、人気があるって言うんじゃない・・・と思う。


しいて言うのなら「この関係を壊したくない」って思わせるような、

それぐらい近くて、遠い、そんなヤツ。


「あ、でもこの前、あいつB組のヤツに告白されてたっけ。」

「は?」

「ま、「好きな人がいるんで」って断ってたけどな」


好きな人・・・

アイツの・・・好きな、人か・・・


「それ、いつ?」

「え?あぁ、1週間くらい前かな。」

「水曜日?」

「んー・・・あ、水曜日だよ!水曜日!え、ってかなんで?」

「いや、こっちの話。」


その次の日から、彼女の様子はおかしかった。


そろそろ、この思いに名前をつけてやってもいいのかもしれない。




「おーい日直ー、これ、準備室まで運んどいてくれー」

「はーい」


ある日、俺にチャンスがめぐってきた。


「これくらいなら、私一人でも運べるから、だ、大丈夫だよ!」

「扉、どうやって開けるの?」

「へ?」

「俺が持っていくから、羽柴は扉開けて。」

「いやいや、悪いよ!私が」

「じゃぁ、半分持って、はい。」

「うわっっとと・・・」

「じゃ、行こうか。」


今日は、羽柴と二人で日直。

いつもだったら、面倒な仕事も、彼女といる時間が増えるだけ嬉しい。


「羽柴、それ、この上に乗っけて。で、扉開けて。」

「う、うん」


扉を開けたら、少し誇りっぽい狭い部屋。


今此処で、扉を閉めて後ろ手に鍵を閉めたら、二人っきりだ。


「それじゃぁ、先生もいないし戻ろうか。」

「・・・あぁ。」


でも、久しぶりに見た笑顔に、

そんな危ない考えは吹っ飛んだ。


放課後は、二人で日誌を埋める。

書いているのは羽柴だけど。


まだ4時だけど、空は真っ赤だ。


そういえば、


「羽柴を、起こした時も、こんな空だった。」

「え?」

「文化祭前で、ちょこまかと動いてる羽柴しか知らなかったから、
あの時、机に伏して動かない羽柴を見て、

本当の羽柴を見つけた気がしたんだ。」


瞳を見つめていたら、

「行こうっ!」と俺の手を掴んだ羽柴の目を思い出した。


「伊武君?」

「好きだよ、羽柴。」


あの時、俺は君に恋をした。


「っっ///」

「っ、羽柴!!」


想いを伝えたら、羽柴は、顔を真っ赤にして教室から逃げられてしまった。


追いかけなきゃ・・・でも、もしも答えが「No」だったら?

そんなこと考える前に、俺はあの子を追いかける。



((少し前に比べたら、随分大きくなったこの想い))
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