先輩のワタシ。
□ピアノの彼
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蘭丸は昨日のレンのことを根に持ってきちんと彼らに指導していないということが判明した。
同室になり、余計に機嫌が悪いのだ。
そうでなくてもレンの反抗的な態度に納得していないようだ。
「全く蘭丸め。後でちゃんと言っとかないと。真斗、蘭丸の弱点教えてげる。」
「弱点?」
奏はこいこいと真斗にむかって手で合図をする。
奏に近づくと彼女特有の香水とは違う甘い香りがしてくることに気付く。
思いがけぬ距離の近さにどこを見ればいいかわからず、視線を下ろす。
化粧を施しているのだろうか。やけに白い首筋が目立つ。
「肉だ。肉。」
「は?」
下がっていた視線をあげ、予想もしない言葉に素っ頓狂な声になってしまった。
「あとは2人で頑張りな。午後から雑誌の取材なんだ。ばいばい。じゃあね。」
奏はばたばたと走って脱ぎ散らかした靴や、広げていた楽譜を瞬く間に纏め、足早にレコーディングルームを後にする。
まだ彼女の残り香が漂っている。
お前は覚えているだろうか。
遠い昔小さな小指で指切りしたことを。
『じい。ぼくおおきくなったら奏ちゃんとけっこんする。』
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