先輩のワタシ。
□ピアノの彼
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レコーディングルームからピアノと女性の声がかすかに漏れていた。
春歌とは違う音の
奏で方を不思議に思った真斗は扉を開けた。
つい見惚れてしまった。
そこにいた奏は昨日の厳しい芸能界を生き抜いてきたアイドル「美南奏」ではない。
ピアノと声のみが部屋中に響き渡り、こだまが反響する。
2年前にリリースされた月宮林檎のシングルをアップテンポにアレンジし、半歩速いメトロノームが軽快にリズムを刻む。
ただ小さな子どもの様に純粋に音楽を楽しむ少女のようだった。
鍵盤を弾くために、普通のアイドルより装飾は短めな爪、先は厚めにコーティングされ、鍵盤にあたっても不快は音は鳴らないように細心の注意を払っている。
彼女がいかにピアノを大切に扱っているかわかる。
「奏…」
「あれ、真斗。」
「す、すみません。ピアノの音が聞こえて、その…、美南さんの声が聞こえてきたもので。」
「いいよいいよ。奏で。幼馴染なんだし、私仕事とプライベートはきちんと分けるから。」
「その…久しぶりだな。」
真斗の言葉に奏のほほが緩む。
隣来いというように椅子の隣をポンポンと叩いて座るように促す。
「うん。真斗大きくなったね。また背伸びたんじゃない。」
「昔より伸びたな。奏は…その綺麗になったな。見違えたぞ。」
「がらにもないこと言わなくていいの。あははは。」
屈託なく彼女は笑う。
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