おお振りでお題に挑戦
□04.握手
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「よ、よろしくお願いします…!」
野球部の練習が始まってすぐ、私は監督に紹介されるかたちで野球部メンバーに頭を下げた。
硬球になってまだ少ししかたっていないしメンバーも多くないらしいから、当然マネージャーも足りないとのことで、中学でソフト部マネをしていた私はこの度野球部マネとなる。
千代ちゃんみたいにテキパキとはいかないかもしれないけれど役には立つはずだし、何より好きな人をずっと見ていられるのだから、正直楽しみだったりする。
その好きな人――彼氏である泉は、野球部の皆に混ざって私をみていた。
他の人達と違って事前に言っておいたので驚きはない。
「はいはいはーい!オレ田島ね!よんばん!んでこいつが一番の三橋な!」
勢いよく手を上げて、田島くんが笑う。
となりの三橋くんも、たどたどしく自己紹介してくれた。
それがきっかけとなり、改めてみんな自己紹介を始め、誕生日やら血液型やら出身校やらを口々にきかれる。
「えっと…よろしくな」
やっと質問ぜめが終わったかと思ったところでキャプテンの花井くんが右手を差し出してくれた。
一瞬理解が追いつかずぽかんとしてしまったけれど、すぐに握手だと気付きそれにこたえる。
するとみんなが順番に手を差し出してくれて、ひとりひとりと挨拶がわりの握手をした。
順番だから泉とも当然握手するわけで、なんとなく気恥ずかしいなぁと思いつつ上を見上げると、何か不機嫌そうな瞳が私をみていた。
「…い、ずみ?」
…やっぱり、反対だったのかな。
泉に反対されて嫌われるくらいなら、今すぐに辞めたい。
でもせっかく頑張ってやろう、と決めたのに辞めるなんて。無性に哀しくなって思わずうつむくと、私の手を泉の手が包みこんだ感触。
「――よろしくな」
「!」
ぱっと泉をみると、今度は何かいたずらっぽい笑みが浮かんでいる。
……あやしい。
あやしいとは思ったものの、泉が反対じゃないことがわかったのが嬉しくて私は笑顔で握りかえした。
瞬間。
引っ張られる感覚、消える景色、視界を埋める白、…だいすきな匂い。
…ああ、泉に抱き締められたらしいと、遅ればせながら脳が理解する。
――待って。
ここは何処だった?…グラウンド。
周りには?…野球部の人と監督たち。
「……!!泉っ!ちょ」
状況を理解して、一気に顔が赤くなるのがわかる。
私が理解するのとほぼ同じタイミングでみんなも理解したらしく、どよっと歓声が上がった。
「わりぃけど、コイツ俺のだから」
「…!!」
きっと今泉は、してやったりな顔で笑っているだろう。
私としてはそんなの考える余裕もないくらい恥ずかしくて、ひたすら泉の肩に顔をうずめているわけだけど。
「……馬鹿」
「――何、キスされたい?」
「―!!」
小声で精一杯苦情を言えば、耳元で低く囁かれる。
…握手したのが運のツキだったのかなぁ…。
呆れるくらい策士家で意地悪なのに、どうしても嫌いになれない、なれるはずも無い自分が悪かったと半ば諦めながら、私は黙り込むしかなかった。
とりあえず今はこの場をどうするか、泉には責任を取ってもらおうと思う。
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07.12.21