GUNDAM-00
□指先でまほうを。
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「…髪のびたなぁ」
鏡に映った自分をみて何となく呟いたその言葉。
まさかそれが彼に届いていたなんて思わなくて。
「んー、髪がどうしたって?」
ソファに座ってテレビを眺めていたロックオンは私の独り言に見事に反応してみせてから、ふと立ち上がった。
「…いや、髪のびたなぁと思って」
「…ああ…。確かに伸びたなー…」
そのまま近付いてくるのに多少驚きつつ髪を一束つまんでみせると、ロックオンも納得したように頭を軽くなでてくる。
「――切ってやろうか?」
軽く撫でながら何か悩んだ挙げ句、彼の口から出たのはそんな言葉。
「…はい?」
一瞬理解の遅れる私を置いて、さっさとハサミを探しにいくロックオンを慌てて呼び止める。
「だから、俺が切ってやるよって。安心しな、その辺の奴等より上手いから」
「や、違う違う!ロックオン待って…!美容院いけばいいから…!」
「今外なにがあるかわかんねぇからな、美容院しまってるだろ?」
「じゃ、じゃあ別にいいから…!」
必死で断るけれども、ほぼ無理矢理座らされて髪を梳かされる。(櫛なんていつ取って来たんだろう…!)
「で?どのくらい切る?」
後ろから髪をいじられるのはまぁ慣れているけど、それがロックオンというだけで早くなる鼓動が少し憎たらしい。
「…ちょっとでいいよ?」
「ん〜。俺的には肩くらいがいいんだけどさ」
ああ、ダメだ。
もう完全に諦めてる自分がいるのがわかる。
「失敗しないならそれくらいでどうぞ」
「りょーかい!っと…何か敷いた方がいいな」
私が大人しくなったと見ると、ロックオンはきもち上機嫌で新聞を敷き始める。
その中央に適当なイスを前に鏡がくるようにおいて、ハサミを何種類かと櫛を机におくと。
「準備完了。さ、座った座った」
言葉とは裏腹に随分と丁重なエスコートでイスまで移動させられた。
すとん、と腰をおろすと、ロックオンの持ってきた布がかけられる。
「んじゃ、切りますか」
「……」
「そんな心配そうにするなって。俺が器用なの知ってるだろ?」
ぽんぽんと頭を叩かれてとりあえず頷くと、じゃー切るぞーなんて声がして、軽いハサミの音が響いた。
シャキシャキ、シャキシャキ。
一定のリズムを保ちながら鳴り響く音。
ロックオンはもう集中する体勢に入ったらしく口を閉じているし、私も邪魔をしたら髪がどうなるかわからないので黙っている。
ハサミ以外の音が消えた部屋はとても静かで、外の喧騒がまるで違う世界みたいで。
いつの間にか私はイスに身を預けて寝入ってしまったのだった。
***
「お客さーん、終わりましたよー」
「―っ!」
やばい!また寝ちゃったか…!
と思って飛び起きると、見慣れた壁の色に鏡。と、それに映るロックオンの姿。
「…あれ?え?」
「たく…人が頑張ってんのにねるとはな」
「……そっか、ロックオンが髪切ってくれ…」
ようやく思い出して鏡へ目をやれば、なるほど、素人とは思えないくらいに綺麗に髪がカットされていた。
「わ…!」
「本当はもう少し短いのが好みなんだけどなー」
「いや、これくらいないといじれないから丁度良いよ」
「言うと思った」
改めて鏡をみれば、どうやら段までいれてくれたようで、そんなに短くもなく長くもなくきちんとバランスがとれていて。
つまんでまじまじと眺めるけれど、すごいとしか言い様がなかった。
「さ、とりあえず流してこいよ。俺片付けるから」
「…何かごめんね?」
「は?あやまんなって、俺が言い出したんだから」
「……ありがと」
「どう致しまして」
お礼をいって微笑み返されたのをみてから、私は軽やかな足取りでシャワーへ向かった。
言われた通りざざっと髪だけ流してでると、ちょうどロックオンも片付け終わったところで。
「似合うぜ」
髪を乾かしてセットまでした私を見て、不敵に笑ってから近付いてくる。
「すごいねロックオン。…何かやったりしてたの?」
「いーや。…あ、まぁガキのをやったりとかな」
「へー…。なんならお金だしてもいいくらいだよ…」
「…お?」
「ん?」
「ん〜、じゃあお代貰おうか」
「…え!?」
例えのつもりが本気に捉えられてうろたえていると、ロックオンが心底楽しそうに近付いてきて。
逃がすまいという風に後頭部へ手をやられて思わず退こうとした瞬間、
ちゅ
額にキスがおとされた。
驚いてロックオンを見やれば、今度は頬に、瞼に、鼻に。
最後に唇へと降ってくる口付けをうけながら、今度からロックオンに切ってもらうのもいいかもしれない、なんて思考がよぎった。
次に髪がのびたら、今度はもう少し短くてもいいかもしれない。
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08.01.14