アカネイア/テリウス長編

□11 みえたもの
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 かかっていた霧が晴れていくように、鮮明に全てが見えた。

あのときのこと、自分の行方。

そして、出会ったときからカインがずっと隣で支えてくれていたこと。

「――ふふっ…もうっ、くさい事いうじゃないの」

「レティ…?」

「ありがと、ずっとそばにいてくれて」

「レティ…なのか…?」

「私以外誰がいるってのよ」

「レティ…!!」

いつもなら、馬上で突進なんかされたら怒るけれど、このときばかりは私もそれに答えるように上半身ごと振り返って背中に手を回した。

「レティっ…レティレティ…!」

「はいはい、ちょっとおちつきなさいな」

顔を上げて彼を見れば、泣きそうな顔で私を見ている。

カインのこんな顔を見るのは初めてだ。

「お前のこと守るなんて言って、守れなかった」

「守ってくれたじゃない。

私は意識が無かったからわかんないけど、背中に矢を受けても止まらずにずっと走ってくれたのんでしょう?

一緒にいたのが貴方じゃなかったら、私今頃雲の上だったから。

だからありがと」

「おうっ…」

「ふふっ、ようやく動けるようになって、思い出せた。

神様も早くマルス様のところにいけっていってるんだよ。

アベルもきっと、待ってる」

「ああ、そうだなっ…」

「…ちょっといつまでくっついてんの」

「もう少し…もう少しだけ、このままで」

「…わかったよ」

馬はじれったそうに足踏みをしたけれど、ごめんね。

もう少し待って。

私もこうしていたいから。


***


結局すぐに馬を返してきて、私たちはおばあさんに記憶が戻ったことを話した。

おばあさんは自分の事みたいに喜んでくれて、その後にさみしくなるわね、といった。

「風向きが避ければ明日にでも島を出なさい。あなた達の帰りを待つ人々の元へ。

この時期ならばタリスの方角へ良い風が吹くはず。

あなた方がここにたどり着いたように、タリスにも無事たどり着くでしょう」

そして、翌朝の風向きはおばあさんの言うとおりタリスの方角へ吹いていた。

私たちは島の人々にお礼を言い、出航の準備をした。船は小さいので準備はすぐにすんだ。

タリスに向かえることは嬉しいけれど、一月もお世話になった島を去ることは寂しかった。

「おばあさん、本当にいろいろとありがとうございました。」

「こちらこそ、とても楽しかったわよ」

「またいつか、会いに来ても良いですか?」

「もちろん!あなた達は私の娘と息子です。

いつでも待っていますからね」

カインが剣を教えた子供達も見送りに来てくれて、私とカインは手を振りながら島を出た。

最初は二人で漕いでいたけれど、風がよく吹いてくれて漕がなくても大丈夫そうだ。

「いい風ね」

「ああ!いい日だ!」

オールを脇に置いて座り込むカインが、手をぐっと上に伸ばして気持ちよさそうにのびをした。

私はその隣に並んで座った。

記憶を失ったことで、気が付いたことがあった。

それは、カインへの気持ちだ。

ずっと一緒にいたから分からなかったことが、記憶を失い客観的に彼を見ることで分かった気がする。

そしてそれは、当たり前のように私の中にとけ込んできた。

要するに、私はずっと同じ気持ちで居たのに気が付かなかっただけのようだ。

いまならば、カインが言う「将来家族になる女」の意味も分かった。

むしろ分からなかったのが不思議でならないよ。

「カイン、私あの話の続き聞きたいんだ」

「あ、あの話か…」

あの話といっただけで伝わるくらいだから、カインは自分の言ったことをきっちり覚えているようだ。

「私のこと、なんだったらいいと思ってるんだっけ?」

「…かっ、家族になる女だ」

「うん」

「だが、もっと簡潔に言わせたいのだろう?」

ちらりとカインを見ると、彼にしては珍しく赤面して心なしかもじもじしているようにも見えた。

珍しいカインの姿に笑いをこらえながら、分かっているのにじらすのはかわいそうなので、私は言うことにする。

緊張はするけれど、カインが想ってくれてるって分かっているから、怖くはない。

「もうわかったんだよ。

私もカインのこと、家族になる男だったらいいなって思ってるから」

笑顔で告げれば、カインは意味が分からないといいたげに私を見た。

なんなのその顔は!同じように返したのに伝わらないの?

「え…レティ…」

「だから、私が言いたいのはあんたが――」

「っ好きだレティ!!」

「わぁあ!」

自分よりデカイ男に飛びつかれて耐えきれるわけがない。

私はそのまま後ろへ倒れて後頭部を強打した。

涙目になって文句を言おうとしたけれど、のしかかって抱きしめてくるカインがあまりに嬉しそうなので、文句は引っ込んでしまった。

「俺…ずっと言いたかったんだ。

けどお前が俺と違う気持ちだったとき、いままでの日常を失うことになるって思って、言えなかった」

「…うん。まぁ、あれだ。

もしアベルに好きだとか言われたら私気まずくなってアベルとしゃべれなくなりそうだもん。

そういうことでしょ?」

「ああ…」

「けど幸い私たちはそうならなかったね」

カインが頷くと、髪が頬をくすぐる。

「ねぇ、おもいよ」

「あっ、わりぃ」

私が少し右に避けて、左側にカインが仰向けに寝そべった。

良い天気だから、太陽の光でぽかぽかして良い気分だ。

風は私たちをタリスへと運んでいく。




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