アカネイア&覚醒&if短編

□月明かりに照らされて
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リク<カムイ×戦巫女&巫女>抹茶さんリクエスト

カムイ男カムイ(デフォルト カムイ)→姉妹と距離を縮めたい。暗夜王子設定
戦巫女ウェーゼル(デフォルト ツキアカリ)→プライドの高い姉
巫女ブレイブヒーロー(デフォルト ワカナ)→臆病な妹※名前変換の説明では兵種になっているので注意

 先日の戦闘で捕虜になった戦巫女と巫女が説得に応じるのは思ったよりも早かった。戦巫女ほどの力量ならばなかなか説得に応じてもらえず報酬を与えることで従軍してもらうことは少なくないのだが、その理由は巫女のほうにある。
 巫女のブレイブヒーローは大変に臆病な性格のようで、説得の迫力に負けすぐに従軍を決めたらしい。
そして戦巫女のウェーゼルはその姉であり、妹を守るために説得に応じたと言う。
カムイは非常にこの二人に興味がわいた。彼は王子の身であり、この軍を仕切っている。当然いろいろな会議にも顔を出すことから牢番には当てられないので二人の捕虜の顔は知らないが、早くに従軍してくれることになった二人には礼を述べなければならないなと思った次第だった。


 月明かりに照らされて


 会おうと決心してみたものの、なかなか彼女たちを見かける機会はカムイにはなかった。夕食を終え、今日もあえなかったと思いながらカムイは廊下を歩く。
窓から差し込む月光が薄く床を照らした。カムイの足音は長く響く。
また影も長く伸びるから、カムイは前方に誰かいると気が付いた。
その人物は窓のふちに手をかけて月を見ているらしい。
廊下は明かりも消されるような時間なのに、まだ誰かいたのかと自分を棚に上げて考えているといよいよその人物が見えてきた。
目深にかぶった白い頭巾と黒い髪、服装は巫女の装いである。
もしかして、と思いカムイは声をかけた。

「もしかして、ブレイブヒーローさん?」
「!?」

巫女ははじかれたように顔を上げ、カムイをまじまじと見つめた。
あまり近くでないので表情は細かく分からないが、おびえた様子である。

「あ、ごめん…驚かせようと思ったわけじゃないんだ。ブレイブヒーローさんで合ってたかな」

巫女はそっと頷いて、腰の低いカムイの態度に少し安心したように微笑を浮かべた。
かわいらしい笑みだった。
カムイも思わず微笑み返す、と暗い廊下の奥から少し焦ったような足音が聞こえた着た。現れたのは戦巫女だ。
カムイは確信をもって彼女がウェーゼルに違いないと思った。
ところが彼女はカムイが話しかける前に妹の手をつかんだ。

「お姉さま……」
「こんなところでは風邪を引きます。行きましょう」

ウェーゼルは形式上とでも言うようにカムイに軽く頭を下げると、妹を引っ張って暗がりに消えてしまった。
普通なら気分を害するところだが、カムイはむしろ余計に二人のことが気になっていた。そしてかたくなに隙を見せなかった彼女に何かしてやれないだろうかと思ったのだった。

***

 何か彼女たちと距離を縮めるものはないだろうか。
カムイは考えてみる。
白夜王国に行った時のことを思い出してみる。何かヒントはないだろうかと。
今は敵対する白夜王国だが、わずかな時間あの国にてカムイが感じたのは、どことなく安心感を与える、懐かしさのようなものだった。あの感じが非常時であれ自分を冷静にしていたのではないかと今になると思う。
それはおそらく、幼いころの自分が白夜王国で暮らしていたからだ。
では、彼女たちも同じように白夜王国の者に安堵を感じるはず。
この城は暗夜王国風になっており、彼女たちにしてみればなじみなく休まらないかもしれない。
そうとなれば、彼女たちの寝泊まりしている白夜の女性兵士用の大部屋に、なにかそう言ったものを置けないだろうか。
カムイは悩みながら、こっそりと妹に相談を持ちかけたのだった。

 エリーゼにそっと相談すると、彼女は良い考えだと賛同した。
マークスやレオンには言いにくいことだが、エリーゼも故郷を捨てて暗夜王国で戦うことになった彼女たちを気の毒に思っていたらしい。

「私ね、前々から捕虜だった人たちに何かしてあげられたらって思って、内緒で白夜王国の花を育ててたんだ!
お兄ちゃん達には内緒にしてたんだけど、今ちょうど花を咲かせる頃なの」

これにはカムイの舌を巻いた。

「すごいなエリーゼ、俺は全然そんなことを思いつきもしなかった。
俺も軍の統率者として、もっと捕虜の人たちのことを考えるべきだったのかもしれないな…」
「ううん、お兄ちゃんは忙しいんだから、こういうことは私に任せておけばいいんだよ!
でも今回のこと、お兄ちゃんも同じ思いだってわかって嬉しかった。
だからお花を渡す役目はお兄ちゃんがやってね」
「悪いよ、エリーゼががんばって育てたんだろう?」
「いいのいいの!それに私…やっぱりまだ少し怖いから、うまく話せるかわからないし」

困ったように眉を下げて笑うエリーゼに、カムイは頷いた。
 エリーゼがカムイに渡した花は「スイセン」という花だった。
白い花びらがかわいらしく、美しくもある花だ。
カムイはさっそくその花を仕舞に届けに行くことにした。鉢植ごと持ちながら、大部屋のあたりを見回す。
今は昼間だから、皆訓練で部屋を開けているようだ。けれど、その大部屋の一つからすすり泣く声が聞こえた。

「もう訓練の時間だ、行かないと。
お前は具合が悪かったと伝えておくから、ここにいて」

この声はあの晩、カムイには向けられなかった戦巫女の声に違いない。
となると、すすり泣いているのはブレイブヒーローのようだ。
どうしたものかと立ち止る。
しかし、なにか泣くほどつらいのであれば余計にこの花を見て元気を出してほしいと思う。カムイはそっと部屋に声をかけた。

「あのっ…」
「っ!?」

すすり泣きは止まった。
舌打ちの声と歩く音、その後ろから駆け足の音が続いた。

「なんだっ」
「お姉さまはすぐに無礼なことをなさるから駄目です」
「だからってお前、そんな顔で――あ!」

大丈夫だろうかとカムイがひやひやしていると、目を赤くしたブレイブヒーローが部屋から出てきた。
カムイは泣きはらしたその瞳に言葉を詰まらせながらも鉢植えを差し出した。

「い、妹が白夜の花を育てたから、少し分けてもらったんだ。よければ部屋に…」

ブレイブヒーローが手を伸ばす。
だが鉢植えは後ろからあわててやってきたウェーゼルの手に奪われた。

「お姉さま!」
「貴様、いくら暗夜の王子と言えど妹への侮辱は許さぬ!」
「え、ぶ、侮辱!?」
「そうだ! 水仙の花ことばは自己愛、貴様は暗夜に従することになった妹を侮辱しているのだな、こんなもの……!」
「ま、待ってくれ!」

エリーゼが育てた花をダメにされては申し訳がない、とカムイはあわててウェーゼルを止める。
彼女の目は本当に怒っていた。
まさかこんなことになるなどカムイには思いもよらぬところだった。
慰めどころかこれが侮辱になるなんて。
彼女の言うようにこの花の花言葉が「自己愛」であるならば、たしかに白夜人でありながら暗夜軍に加わった彼女たちに対する侮辱と取られてもおかしくはない。

「お、お姉さま、カムイ様は私たちに気を使ってくださったんです。
暗夜人にこの花なお花言葉はわかりません」
「そうであっても、もう二度と戻れない白夜王国の花を渡すとは、どういう見解なのだ。
それに戦闘に関してもそう、我ら白夜の捕虜は最前に置かれてもおかしくないのに、決まって安全地帯に配置される。
どういうつもりなのだ、こんな…こんな…!」
「そ、それは違う!」

カムイはぐるぐると弁解の内容を考えていたのだったが、ウェーゼルの悲しげな声に、いつの間にそういっていた。
二人は驚いたように視線を向ける。

「たしかに俺の配慮が足りなかった、すまない。
だが、二度と戻れないなんて言わないでくれ。配置については、これは暗夜と白夜の闘いなのに捕虜になって戦線離脱した者たちに戦ってほしくないと思ってそうしている。
そして俺は…いつの日か、暗夜と白夜で手を取り合えればと思っている。
信じられないかもしれない、俺は君たちの敵だから…それに容易なことではないし、すべてが終わった後、君たちが白夜に帰り今まで通り生活できるという保証はない。
でも、これが俺の信念と言うか、目標と言うか…だから、配置のことは悪く思わないでほしい」

ウェーゼルは読めない色を浮かべた瞳でカムイを見る。
彼は決して目をそらさなかった。先にそらしたのはウェーゼルのほうだった。

「…熱くなって言い過ぎた。私たちの立場は低いと言うのに、散々なこと言ったな」
「いや、いいんだ」
「それにあなたは敵だと言ったが、今は違う。…これは、あなたの妹が育てたと…エリーゼ様だな」
「ああ、とても良い子なんだ。俺よりもずっと、いろいろ見えている。
その花を育てながら、白夜のみんなに話しかけられなかったエリーゼの思慮深さ…本人は怖いとしか言ってないけれどたぶんあれは考えあってだったんだな、それは見習うべきだった」

ウェーゼルは花を妹に渡し、今度は形式上ではなく心から頭を下げた。

「いろいろと無礼を働いた。
力になれることがあればいつでも申し付けてください」
「じゃあ、白夜の花を君たちで育ててほしい」

それは、いつの日か全てを終わらせ、捕虜たちが故郷に帰れる希望を育ててくれと、そう込めたのだった。
ブレイブヒーローはまた目に涙を浮かべて何度も頷き、ウェーゼルはすべて理解したようにそっと目を伏せた。

「よかった。じゃあ俺はやることがあるんだ。こ、今度はよければ一緒に食事をしよう。
難しいかもしれないけれど、みんなともなじんでほしい。
そのほうが暮らしやすいと思うから」
「いいですね、お姉さま」
「ええ」

姉妹は柔らかな笑みを浮かべた。
カムイはそれを見て、何としてでもこの戦争を終わらせるのだと、心に誓いなおしたのだった。


End

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