アカネイア&覚醒&if短編

□日常会話
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支援A状態


「恥を忍んで、お前に頼みがある」
「兄さんからそんな風に言うなんて、珍しいですね。私で良ければ力になりますが……」
「どうすれば、普通の会話が成立するのか俺に教えてほしい」
「に、兄さん……!?」

五代目サイゾウ。
この堅物の兄から出るとは思えない頼みに、弟は目を瞬かせた。

サイゾウは悩んでいた。
少し前までこの軍のリーダーであるカムイを監視していたが、その自主的任務も終わりを告げたこのごろ、いつもならくだらないと一蹴りするようなことに悩んでいるのだ。
自分でもおかしい気がする。
だが、「これからは友達だね」と、なんの疑いもなくただ嬉しそうなカムイを見て、ではこれからは普通に話しかけてやっても良いだろうと考えたのはいいものの、実際に声をかけると話題がない、沈黙、そして何でもないとそそくさ逃げてしまう。
後からそのことを振り返ると自分が情けないような気がして気分が良くない。
しかも幾度となくそれを繰り返すのだから、もう誰の手でもいいから借りたくて、弟に声をかけた次第である。

「会話が成立…それは、どうにも…。
とりあえず先に話題を決めて、話しかけてみてはどうでしょう」
「……話題など持ち合わせおらん。
あるとすれば仕事か任務の話だ。
だがそういう話のときは何の問題もなく会話できる。
そうではなくて、日常的にだ」
「そうですね…兄さんは公と私を分ける人ですからね(常に公の態度のような気もするけれど…)。
相手が誰なのかによりますが、日常的会話が苦手な兄さんなら、武器の話とか、少し固いところから始めてもいいと思いますが…。
ああ、あと女性でしたらお店の話などいかがですか。
最近城下に小物を売る店ができたみたいですし」
「……俺がいつ女相手だと言った」
「いえ、直感です。気に障ったなら謝ります」
「…いや、すまんな。試してみよう」

試してみよう、と言ったものの、正直あまり参考にならなかった弟にサイゾウはひそかにため息をついた。
まぁ、とりあえずまずは手裏剣の話をしよう。カムイは突然の話題に驚くだろうが、おそらく乗ってくれる…はずだ。
サイゾウは意を決してカムイの気配を探ったのだった。
 もとから近くにいたらしい、彼女の気配はすぐに見つかった。
よし、手裏剣だ、手裏剣。サイゾウは早足になってカムイに迫る。
行くぞ、五代目サイゾウ、参る…!

「おい」
「っきゃあああ!!」

あんまり突然、しかもすごい気迫で話しかけられたものだから、のんきに散歩をしていたカムイは叫んだ。
しまった、足音を立てないと驚かせてしまう事は学習済みだったのに…!

「さ、サイゾウ!もう、驚かさないでよ。
どうしたのそんなに怖い顔をして!白目開いてるけど!」
「あ、ああ…いや…ぐぬぬ…」

言えぬ…こんなに驚かせてまで唐突に手裏剣の話などできぬ…。
サイゾウはうなる。
カムイも不思議そうに見上げてくるので、「やはり何でもない」とも言いにくい。

だがその時サイゾウは見た。
カムイの襟が立っていることに。

「…襟が立っているぞ」
「え…?あ、ほ、本当だ!」

カムイは指摘された襟をあわててなおす。サイゾウはひとまず救われたような気持になった。

「一応王族なのだ、身だしなみには気を遣え」
「うん、ありがとうサイゾウ」

ちょっぴり赤面しながら、カムイは言う。それから必要以上にニヤニヤするので、サイゾウは片眉を上げた。

「何がおかしい」
「ううん、サイゾウってあんまり自分から話しかけてくれないから。
でも任務のこととか、困ってるときにはすぐに声かけてくれるでしょ?
真面目だなーって思って。
今日もこれから軍事会議あるから、その前に教えてもらえて本当にたすかったよ」
「そ、そうか」
「あ、そうだ。会議終わったらお昼になるし、今日お昼一緒に食べようよ!
食堂行くから待っててね!」

おいちょっと待て!
言う前に、彼女はうれしげに走って行ってしまった。

しかし…公の用事でしか話しかけられないことが、そこまで悪い印象を与えていたわけではないのだとわかると、悪い気もしない。
それに流れで昼飯の約束まで取り付けられてしまった。
手裏剣の話は、その時でいいか。
サイゾウはとりあえず満足して踵を返したのだった。


日常会話


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