アカネイア&覚醒&if短編

□監視記録Sのお前へ
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***

傷が治った後、俺はカムイに礼を言い、リョウマ様への報告へ来ていた。
カゲロウのほうも任務は終わったようで、俺とともに報告を済ませる。
すべての報告が済むと、俺は負傷のことを主に感付かれないうちにすみやかに部屋を後にした。

「サイゾウ」

部屋を出てすぐに、カゲロウが俺を呼び止める。
鼻のきくやつだ、こいつは俺の負傷には気が付いているのかもしれんな。

「なんだ」
「今日のお前は少し様子がおかしいな。
それは、お前が負傷したことと何か関係があるか」
「……」
「お前がなんだろうと私には関係ない、と言いたいところだが、私たちは同じくリョウマ様に仕える忍。

片方の調子がすぐれず何かあれば後の祭りだ」
それはいつもなら、俺が言う言葉だ。
それもあって、俺はその言葉をはねのける方法を知らなかった。
いっそ、話してしまえばいいか。
報告中も俺の頭の中は涙を流すあいつのことでいっぱいだった。
このまま次の任務へ向かえば、なにか失態をおこすだろうことは目に見えている。
俺たちはリョウマ様の部屋の前から、人気の少ない廊下に移動した。

「…お前の言う通り、今回の俺は致命傷を負った。
命からがらここへ帰ってきて、カムイのおかげでどうにか傷はふさがったが」
「はやりな。血のにおいがする」
「……泣かれた」
「カムイにか」
「ああ」

カゲロウは壁に背を預け、腕を組んで俺を見る。

「もっと自分を大事にしろと言われた。
それから、俺はずっと上の空だ。
たしかにお前の言う通り、このまま次の任務に行くのは危険かもしれぬな」

驚くことに、視線を向けるとカゲロウは笑っていた。
何がおかしい、失礼な奴め。

「そう睨むなサイゾウ。私は驚いただけだ」
「驚いたやつが笑うものか」
「お前が他人の言葉にそれほど惑わされることが今まであったか。
私が何度自分を犠牲にするなと言ったところで、リョウマ様さえお守りできればよいといっこうに聞き入れなかったあの男が、今は白夜王国の王女に泣かれて、任務どころではなくなっている」
「……」
「かつては恋人同士であった私ならばわかる。お前は人に合わせることが苦手な男だ。
だが今は、カムイの言葉に心を揺るがされている。
お前は、とうとう生涯大切にすべき女性に出会えたのではないのか」
「…俺には到底無理なことだ」
「カムイがほかの男に抱きしめられているところを想像してみろ。
もしそれが我慢ならぬなら、自分で幸せにしてやることが最善だと私は思うが」
「うっ……」
「今日はもう任務はなかったな。
怪我は治ったと言え、体はまだ疲労しているだろう。
もう休め。カムイもきっとそう思っているぞ」
「うぅむ…」

俺はうなるほかなかった。


***


翌朝から、食堂であいつの姿を見かけなくなった。
それは本来ならばいつも通りのこのはずだが、俺はいやに落ち着かなかった。慣れとは、恐ろしいものだな。
自室にしまわれた、あいつの監視記録。俺とあいつが「友達」になったその日に終わらせた記録。以前あいつが、自分の怪しさに点数をつけてみろと言ったが、怪しさではなくあいつの人間性に点数をつけるとすれば、満点だろう。
暗夜風の評価で言えば、Aを通り越してSとやらになるのだろう。

そんなあいつを、俺は怒らせたらしいな。
そう考えていると、どうにも俺はうまく寝つけなかった。
忠告されたことに背くように、また自分でもこんな気持ちのままでは危険だとわかっていながら、できる任務は片っ端からこなした。
うっぷんを晴らすためだ。無心になりたかった。
ただ、俺は無茶に突っ込むことはやめた。
本当に、俺と言うやつはどうかしている。



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